+++■戴き物・anon赤エル様より■+++
炎愛メイツのanon赤エル様からいただいちゃいました!!!!
虚構と現実の狭間で、
孤独に押し潰されそうになりながら
互いに傷を舐めあう、宰相と炎蛇のXXXな関係。
きっと、どれが本当の自分かわからなくなってしまったんでしょうね。
色々な想いが交錯してて…ううっ、せつないです。
Nameless Doll
宮廷の廊下は灯りが殆ど落とされていて、視界を狭められている分、絨毯を踏む足音が余計に大きく感じられる。
ところどころで辛うじて光を放つ燭台より、延々と続く大きな窓から差し込む月明かりの方が、よほど照明としての役割を果たしていた。
アトルガン皇国軍、五蛇将の一人、炎蛇将ガダラルは、窓の外に浮かぶ闇曜日の満月を見上げた。
夜空に溶け込む色をした月から降り注ぐ仄暗い月明かりさえ、今のガダラルには眩しく見える。
その清らかな輝きは、今までも、今も、そしてこれからも??触れてはならないものだ。
触れた途端、そこから泥のような濁りが広がり、澄んだ空さえも穢れで覆い尽くしてしまう??
ガダラルは目を顰め、僅かばかりの光を湛えた青い瞳を闇に融かすと、窓から顔を背けた。

前方に不滅隊の男が、背後に女が、一定の距離を保って歩き続ける。
その一糸乱れぬ歩みに以前は気味悪さを覚えたものだが、今となってはその無機質な動きを見る事が、自身を催眠状態に陥らせるかのごとく、感情を押し鎮める為の儀式となっていた。

前を歩く男の肩越しに、重厚な造りの扉が見えてくる。
不滅隊の男はその前で立ち止まり、暗がりに溶け込むような色合いの扉を叩くと、中からの返事を待つことなく部屋へと入っていく。
それに続いてガダラルも中に足を踏み入れる。
広い部屋もまた廊下と同じく殆ど灯りが灯されておらず、真夜中の静けさが耳に染みた。

不滅隊の男女が去り、扉が閉まる音を背後に聞きながら、ガダラルは薄暗い部屋の中に視線を巡らせる。
そこには、誰も居なかった。
蛮族を迎え撃つ時のように息を潜め、神経を張り詰めさせる。
人の気配が感じられない。
湯浴みでもしているのだろうと、湯殿がある部屋へと歩き出す。
遅かれ早かれこの部屋??ガダラルが一晩を過ごす、寝室??へと連れ込まれるのだから、先に入ったところで、これから起きることに何ら影響はないだろう。
白塗りの扉を慎重に開き、寝室へ入る。
そこにも誰の気配もなかった。
今まで居た部屋と打って変わって、寝室は煌々と灯りが灯されていた。
ガダラルは静かに息を吸い込むと、爽やかな木の香りが漂っている事に気付いた。
一切教えたことなど無いのにいつの間にか知られてしまっていた、自室で焚いているフランキンセンスの香。
以前、普段は別の香を焚いていると聞かされた時、わざわざガダラルが訪れる時だけに用意していると知り、寒気がした。

とうの昔にこの部屋の間取りを把握してしまったガダラルは、湯殿の方へ耳を集中させる。
しかし、全く音が聞こえてこない。
(居ないのか……?)
辺りに視線を巡らせると、ガダラルは、詰めていた息を木の香りの中に拡散させた。
「私が居なくて、安心したか?」
「!」
突然、背後から宰相ラズファードに抱き締められた。
「……!」
ラズファードは、ガダラルの頭をターバンの上から撫でると、耳元に唇を寄せ、笑みを含ませた声で言った。
「よく来たな、炎蛇将」
(いつの間に背後へ……!)
ガダラルは、ラズファードが全く気配を感じさせなかったことに畏怖の念を抱いた。
長らく戦いに身を投じてきたガダラルは、今もまた戦いに明け暮れる日々を送っている。勘が鈍る暇などないはずだ。
そんな自分に気取られず、間近にまで近付いてくるとは??
不滅隊を率いて自ら戦陣に立つこともあるらしく、官界に住まう者らしからぬ身のこなしにガダラルは敗北感を覚え、唇を噛み締めた。

ガダラルが身を強張らせていると、ラズファードはあっさりと離れていった。
抱き締められた時の熱と感触で薄々気付いてはいたが、横を通り過ぎる姿を見ると、バスローブを一枚羽織っているだけだった。
金糸の刺繍が煌びやかなソファに腰掛け、背もたれに両腕を置く。
短い黒髪はまだ乾ききっておらず、所々が無造作に跳ねていた。
白い肌は仄かに上気していて、湯浴みを終えたばかりであることを窺わせる。
ラズファードはガダラルを見つめたまま、ゆっくりと足を組んだ。
真っ直ぐ前に視線を固定させていたガダラルは、しとやかとも形容できる足の動きに、思わず目を奪われた。
足の動きが止まると、ガダラルは直ぐに視線を逸らした。華美な内装の放つ光が、目にうるさい。
「こちらへおいで」
ラズファードが、端正な顔に穏やかな笑みを湛えながらゆったりと腕を上げ、宙を掬うようにして手招きをした。
まるで子供を呼ぶかのような口調にガダラルは不快感を覚えつつ、努めて無表情で部屋の主の前に歩み寄った。
「いつまで着ているつもりだ、その鎧を」
ガダラルがソファに座る男と目を合わせると、ラズファードは一瞬だけ蔑むような目をした後、柔らかな笑みを浮かべた。
「早く見せてくれ、貴公のあられもない姿を」
その言葉に全くそぐわない毒気のない笑みに、ガダラルは僅かに怯んだ。
この男はいつもこうなのだ??まるで心を傾けているような、そんな態度を取る??所詮、演技だというのに。
欺瞞と謀略渦巻く国政など、心とは裏腹な顔を出来ずして司ることなど出来ない。
ラズファードは事を終えた後、まるで恋人にでも語り聞かせるかのように、いかにして自分が周りの無能共をあしらっているか、といった身の上話のごく一部をガダラルに語り聞かせる??その話を、たゆい体を横たわらせながら耳にする度、ガダラルはこの男の表情も言葉も全て、虚構の物であるとつくづく感じるのだ。

ソファに座り、心底幸せそうな笑みを湛えた男の前で、ガダラルは鎧を下ろしていく。
篭手を外し、そっと絨毯の上に置く。
自由を得た手を肩にやり、胸当てと背板を繋ぐ肩上を持ち上げ、ターバンを外さぬまま胸当てを脱ごうとした途端、前方から笑い声が発せられた。
動きを止め、その声が聞こえた方を目だけで見遣ると、ラズファードが組んでいた足を解き、ひらりと立ち上がった。
足音も立てずにガダラルの傍まで歩み寄ると、目を細め、頬を覆う紺色の布を指先でなぞる。
ガダラルは一瞬だけ眉間に皺を寄せ、その感触を堪えると、自分の顔を引っ掻くかのようにターバンの顎当てを掴んで上に持ち上げ、一気にターバンを取り去った。
深紅のターバンを床に放り投げ、再び肩に手をやると、ラズファードが手を伸ばし、乱れた髪を撫で付けようとしてきたので、ガダラルは無意識に一歩退きそうになった。
すると突然腕を掴まれ、引き寄せられた。
「どれ、手伝ってやろう」
肘の辺りを掴む指先に力がこもり、無理矢理後ろを向かせられる。
抵抗しようにも力の差は歴然で、ガダラルは自分の魔道士であるが故の力の無さを憎んだ。
胸当てを持ち上げて脱ぎ去り、肩甲を外している間、背後に立つ男に、胸甲を固定している背中の紐を解かれた。
胸甲を下ろした後、腰に巻かれたベルトを解き、太腿の両脇を固める帯板を下ろす。
華やかな模様の広がる床の上に屈み込み、脛当てを外し、ブーツを脱ぎ去る。
徐に立ち上がり、絨毯の上に転がる鎧を足で退かせているうちに、肘までの長さがある袖の、中程を絞る緑色のリボンを解かれる。
縁に細かい透かし編みが施された白いシャツを脱いだ瞬間、肩を掴まれ、体を反転させられた。
鼻が触れる直前まで顔を近付けられ、値踏みするかのような表情をした、茶色の瞳に射竦められる。
ガダラルは、体を包む空気が突如として全て凍てついたかのような寒気を覚え、全身を強張らせた。
辛うじて動かせた目だけを逸らすと、作業を再開する。
強張った手で膝丈のズボンを下ろし、黒いシャツと、黒いタイツを脱ぐ。
嘗め回すような視線を感じながら、下着を取り去る。
脱いだ着衣を床に放ったガダラルは背筋を伸ばし、兵士が整列するかのごとく、直立不動の姿勢を取った。
ラズファードは一糸纏わぬ姿になったガダラルを頭の先から足元までじっくり眺めると、またしても笑みを浮かべた。
「今宵も美しいな、貴公は」
「……!」
まるでラミアのような妖艶さを匂わせる笑顔に、ガダラルは独りでに頬が引きつっていくのを感じた。
ラズファードは舞うようにくるりと背を向け、天蓋付きベッドへと向かって歩き始めた。
その背中を睨み付けながら、裸になったガダラルはその後をついていった。

バスローブを羽織ったままのラズファードは、一人で使うには随分と大きなベッドに腰を下ろし、優雅な所作で足を組むと、ガダラルの目を見つめ、ベッドの脇に据え付けられたテーブルを顎で指し示した。
絢爛な彫刻が施されたテーブルの上に、絹布で出来た帯が二枚、折り畳まれて置いてあった。
ガダラルは、自然と引きつっていく頬を奥歯を食い縛って抑えながら絹帯を一枚手に取ると、それを広げた。
はらりと落ちた両端が、裸足の甲に触れる。
ガダラルはその細い帯を掬い上げるようにして手に持つと、親指に力を込めながら、顔の幅に開いた。
ベッドに座った男の絡みつくような視線を感じながら、ぴんと張った帯を顔に持っていくと、瞼を閉じ、目を覆う。
明るい部屋の中で暗闇に覆われながら、長い帯を包帯のように頭に何度も巻き付け、後頭部で結んだ。
テーブルの方から、音が聞こえる。ラズファードが、もう一枚の絹帯を手にしたようだ。
ガダラルは頭の後ろで帯を結い追え、下ろした手をきつく握ると、まるで手枷を填められようとしている罪人のように、両拳をゆっくりと前に差し出した。
ベッドから立ち上がった気配の後、両手首に、細い帯が執拗に巻き付けられる。
堅く縛り上げられ、手の平が氷のように冷えていく。
ガダラルはその感触に、初めてこの部屋を訪れた時の記憶を呼び起こされた。


初めてこの部屋に呼ばれた時。
宰相ラズファードがガダラルを呼び付けた理由を悟っても、ガダラルは抵抗しなかった??出来るはずもなかった。
如何に軍を統べる将軍であろうとも、国の大政を司る者に逆らえるはずがないのだ。
命じられた通りに媚薬を飲み干した後、体を暴かれるかと思いきや、予想に反してラズファードは、何も知らない乙女を扱うかのように、ごく丁寧にガダラルを犯していった。
苦痛や屈辱になら、いくらでも耐えられる??そう自負するガダラルも、強烈な快楽に抗う術は持たなかった。
薬の効果と限りなく穏やかな愛撫に、ついには自尊心を打ち砕かれ、女のような叫び声を上げ続けた。
今までに味わったことのない感覚に体だけはひたすらに溺れ??辛苦以外の原因で気絶したことなど、それまで経験したことがなかった。
意識を失っても尚、解放されず、夜が明けるまで、抱かれては果て、抱かれては果て??何度目かに意識を取り戻した時には、ラズファードがガダラルを抱き締めたまま、安らかな眠りに就いていた。
その寝顔はあどけないと言っていい程無防備で、まるで、子供が人形を抱いて眠るかのようだった??


(莫迦にしやがってッ……!)
強制的に作り出された闇の中でその光景をまざまざと思い出したガダラルが、奥歯をぎり、と噛み締めると、目の前に立つラズファードが含み笑いをした。
指先が、輪郭を辿る。
「私と居る時くらい、険を取ったらどうだ」
ガダラルはその言葉と感触に寒気を覚え、目を覆う絹布の下で一度堅く目を閉じると、言われるがままに、無表情を作り出した。
「そう、……私の≪人形≫は、険しい表情など作らず……」
頬をなぞる指先が顎にたどり着くと、親指で唇を撫でる。
「……私が与える熱によってのみ、淫らに微笑み、啼き声を上げるのだ。……そうだろう? 我が人形よ」
ガダラルはその声に、喉元にナイフを突きつけられたかのような錯覚を覚え、息を呑むと、一度だけ頷いた。
空気が、微かに揺れる。ラズファードが、笑ったようだ。

手を引かれ、ベッドに導かれる。
天幕の揺れる気配を感じながら、掛け布団を捲られたベッドの上に乗り上げる。
手触りの良い、上等なシーツの上に横座りになって固まっていると、後ろから抱き竦められた。
「炎蛇将」
耳元に、熱を帯びた声が聞こえる。
「私の名を、呼べ」
僅かに顔を背け、その命令を拒む。
ラズファードが、指先で、唇をなぞる。
「??さあ、この美しい唇で、私の名を紡いでみせてくれ、炎蛇将」
平生の凛とした態度とは程遠い、切実さを帯びた声が耳を過ぎる。
その同情を誘おうとするかのような口調に、虫酸が走る。
「人形に名を呼ばせて……何が楽しいのですか、宰相……!」
最後の一言だけ、蛮族を罵るかのような声色で吐き捨てる。
当然次に訪れるであろう戒めの衝撃に構えていると、突如として口内に手を突っ込まれた。
舌を掴まれ、捻られでもするのかと思いきや、じっくりと舌の表面をなぞられた。ざらついた手触りを楽しむかのように。
「くっ……ふ……」
舌を優しく、あくまで優しく撫でられ、その曖昧な感触に仰け反り、背後の男の肩に濃茶の髪を擦り付ける。
滲み出た唾液が、口の端と、口を探る長い指を濡らしていく。
しばらく舌を指で掻き混ぜられた後、息が乱れたことを悟られないよう慎重に深呼吸を繰り返していると、ラズファードが離れていった。

バスローブが、絨毯の上に落ちる気配がした。
ガダラルが、近付く男の動きを耳だけで感じ取ろうとしていると、突如として後頭部から垂れ下がった帯を強く引かれた。
「っ……!」
ベッドの天幕が下ろされている側に足を投げ出し、シーツの上に尻を突くと同時に、背後から裸になったラズファードに抱き寄せられた。
引き締まった腕を回し、背中に密着してくる。
「炎蛇将」
触れてくる肌が熱い。
頬を隠す髪を掻き上げられると、耳たぶを舌で弾かれた。
「感じているのだろう? ……私の声を」
しっとりとした感触の唇が、背中を這う。
「私の唇を」
ずっと感じている寒気のせいで、堅くなっている胸の飾りを指先で撫でる。
「私の指を」
「んっ……く……」
「そして……私の熱を」
尻に、立ち上がったものを押し付けられた。
ガダラルが頻りに首を振ると、突然芯を掴まれた。
背後の男と違い、まだ何の兆しもない半身をやんわりと握られる。
胸の先端を指で転がされると同時に芯を揉まれ、次第に硬度を増していく。
頭をもたげた芯の、無意識に反応を返してしまう箇所を何度も扱かれると、尻に当てられているものと同じくらい、堅く立ち上がった。
先端を指先で押し広げられる。
「く、うぅっ……」
反射的に背を反らすと、ラズファードがガダラルの乱れた髪に頬擦りしながら、静かな笑い声を上げた。
「敏感だな、貴公は」
その声は、まるで愛し合う者同士が交わす言葉のように戯けた響きを孕んでいて、その白々しさに、ガダラルは密かに唇を噛み締めた。

四つんばいの姿勢から、腕の上に顔を伏せさせられ、尻だけを高く突き出した状態にさせられる。
後孔に催淫効果のある香油を垂らされ、その冷たさに一瞬身を竦ませた。
入口に香油を塗り込めるように撫でられると、濡れた肌にちりちりとした鈍痒が広がる。
「力を抜け」
ガダラルが、侵入を拒むように閉じていた部分から力を抜くと、指がゆっくりと差し込まれた。
窄まりを丹念に、柔らかく解されるうちに、痛みとも痒みとも取れない感覚が、確かな快感に変化した。
「くぅっ……!」
その感触に自然と腰が跳ねてしまい、ガダラルは絹布の下で思い切り眉間に皺を寄せた。
「はは。そんなに好きか。私に掻き混ぜられるのが」
楽しげな声と共に、指が蕾を綻ばせていく。
肉を割られゆく感触に、ガダラルは吐き気すら憶え、何度も唾液を飲み込んだ。
「熱いな。私が欲しくて、体が火照ってきたか?」
(??何をたわけた事を……!)
ガダラルが頬を引きつらせた瞬間、またしても目を覆う帯を強く引かれ、後ろを苛む手の上に座り込むようにさせられる。
目に食い込む帯を掴み、もう片方の手でシーツに縋って抵抗しようとしたが、大きく仰け反らされたせいで、辛うじて指先が触れただけだった。
動かされ続ける指の感触に忽ち力が抜けていき、ベッドの上に座ったガダラルは、ひたすらに、浅い呼吸を繰り返した。
「私が欲しいのだろう?」
ラズファードはガダラルの耳元に唇を寄せると、舞台に上がった演者のように大仰な口調で尋ねた。
頭を振ろうにも、頭に縛り付けた帯を引かれ続けているせいで首が限界まで逸らされていて、動くことが出来ない。
埋め込まれた指が、狭い体内で踊り出す。
「っ……!!」
「答えろ。私が欲しいのだろう?」
質問の形をした命令に応えるべく、真上を向かせられているガダラルは静かに口を開いた。
「……はい……」

後孔に埋め込まれていた指を抜かれ、手を縛り上げていた帯を外された後、目隠しを取れと命じられると同時に、布の翻る音がした。
何故今天幕を引き上げる必要があるのかと訝しみながら、ガダラルは目を覆っていた絹布をゆっくりと外した。
「……!!」
瞼を開くと、目の前に大きな鏡があった。
両腕を広げた以上の幅がある鏡に、自身の醜態が映し出されていた。
反射的に目を閉じ、顔を逸らす。
「目を背けるな」
穏やかな、しかし胸を押し潰すような低く、鋭い声に、ガダラルはおずおずと瞼を上げた。
鏡越しに宰相と目が合う。
無意識に眼差しを鋭くした途端、突然顎を掴まれた。
「くっ……!」
視界が激しくぶれ、思わず目を閉じる。
「ほら、見てご覧。我が麗しき人形よ」
耳元を、まるで安心させるかのような温かな声で撫でられる。
ガダラルは長い睫毛を震わせながら、恐る恐る目を開いた。

鏡の中の自分と、目が合った。

涙の浮かんだ瞳。赤く染まった頬。涎に濡れた唇。
そこには、欲情しきった男の姿が映っていた。
「……!」
受け容れ難い光景に、咄嗟に顔を伏せる。
顎を揺すられ、再び正面を向かせられる。
背後から、そっと頬を撫でられる。
「ご覧、炎蛇将。貴公は私を感じて、こんなにも淫らな顔を私にさらしているのだ」
ガダラルが、屈辱を強いる男を鏡越しに睨み付けると、ラズファードが目を細めた。
「その憎しみを露わにした瞳で、貴公は今までに何人の男を誘惑してきたのだ?」
(誰が誘惑など……!)
ガダラルが更に眼光鋭く視線を返すと、鏡の中の男が僅かに肩を竦め、溜め息を吐いた。
「自覚、なしか。ならば……」
突然、首筋に噛み付かれた。
「っ……!」
歯を立てた箇所に舌全体を押し付けたラズファードが顔を上げ、鏡越しに微笑む。
「教えてやろう。……私が貴公に、どれだけ溺れさせられているかを」
(溺れさせられている……!?)
自分に向けられたものとは思えない言葉に唖然としていると、ラズファードは再び背後から首筋に唇を寄せ、何度も強く吸い付いた。
白い肌に散った赤い痣に目を落とし、指先で一つ一つ辿りながら、自嘲と共に囁く。
「私がこれ程までに一人の人間に執着したのは、貴公が初めてだ。一目見た時から??絶対に、手に入れねば気が済まない、そう思っていた」
ガダラルは、胸の奥が急激に冷えゆくのを感じた。

「う、ぐぅっ……」
俯せにさせられたガダラルが、指よりもずっと大きな塊が体を割っていく感触に呻き声を上げると、頬の両側を片手で掴まれ、強引に口を開かされた。
「誰が声を堪えろと命じた?」
鏡越しに、茶の双眸がガダラルを射抜く。
「??啼け」
その声と共に一度、強く腰を打ち付けられると、体の中心を深い痺れが走った。
「あぁっ!」
肌を打ち付ける音に混じって、密かに笑う声がした。
「それでいい、炎蛇将。貴公は私の為に歌い、舞い踊る、美しき人形なのだ」
ガダラルは激しく揺さ振られながら、眉根を寄せ、独りでに涙が浮かぶ目で鏡越しに、自身を穢していく男を見上げた。
鏡の中の男が、満足げに微笑む。
「ああ、とてもいい顔だ。さあもっと、私の熱に浮かされた淫らな表情で、私を悦ばせてみろ」
ラズファードは腰を引くと、直ぐさま肌を打ち鳴らし始めた。
「あっ! はぁっ! んんっ……!」


大きな鏡の中で、男が揺れている。
膝立ちになった男は、白い肌に幾筋も汗を流しながら人形に腰を打ち付け、口の端を微笑ませながら、鏡の中で光る人形の目を見つめている。
頬を涙で濡らし、体を震わせる人形は、命じられた通り、楔を打ち込まれる度に声を上げる。

二人の像が、歪んでいく。
声とも息ともつかない音が、けたたましい水音を掻き消していく。


甘い香油の香りと汗のにおいに混じって、部屋に漂う香の香りを感じ取ってしまったガダラルは、良く知ったその木の香りから逃れるかのように、僅かに首を振った。
その様を目にしたラズファードは小声で何かを呟きながら目元に笑みを浮かべると、揺さ振られるがままに跳ねる人形の腰を掴み、更に激しく動き始めた。

細かい律動が、体内の一点を襲い始める。
与えられる感覚に腕の力が抜け、ガダラルはその場に頽れると、揺り動かされるままにシーツにこめかみを擦り付けた。
「あっ! あ、あぁ、はぁぁぁ……」
「……佳い声だ。さあ、私の為に更なる歌声を」
腰を捕らえた手に力が込められ、更に強く屹立を打ち込まれる。
弄ばれる粘膜から、体の中心を幾度も駆け上る感覚に肌が波立ち、唇をきつく噛み締める。
しかしその痛みは玉響も声を押し殺せず、独りでに口が開き、荒い息が、唾液と共に溢れ出る。
(畜生……、痛めつけられた方がまだマシだ……!)
ガダラルは屈辱と同時に、欲望を吐き出す器でしかない筈の身が歓喜に打ち震えることに、戦慄を覚えた。

「我が人形よ……名を……」
耳とシーツが擦り合う音の間に、頭の中に直接語り掛けられたかのような、密やかな囁きが聞こえてきた。
「……我が名を、叫べ……??」
その言葉は、≪所有物≫に掛ける物とは程遠い、哀願の響きを帯びていた。

意のままに服従させておきながら、この命だけは、逆らっても何も言わない。
??人形の心に、持ち主の存在が植え付けられたかと、探ろうとしているだけなのだから。

始めは、この男が見せる繊細な表情さえ、作り物だと思っていた。
いつからだろう、時折垣間見せる切なげな顔に、慕情が籠もっていると知ってしまったのは??

(……違う! 俺は、貴様の人形なのだろう? 貴様はただ、主命のままに踊る人形を欲しているだけの筈だ……!)
力の入らない腕をシーツの上に滑らせ、指を銜えた瞬間、それを阻むかのように強く揺さ振られた。
「あぁっ!!」
「歌はまだ終わりではないだろう……!」
埋め込まれた猛りが抜ける直前まで引き抜かれ、直ぐさま根元まで突き入れられる。
内壁を執拗に嬲られ、媚薬に酔った躰から、理性が蒸発していく。
「あ! んっ、あぁ、はぁぁっ! ……」
自身を成す強固であるはずの鎧が、ひとつひとつ剥がれ落ちてゆく。
絶え間ない悦楽が、露わになった精神までをも揺さ振り始める。

(名だけは、貴様の名だけは、呼んでやるものか??!)

凍てつけ我が心。
何をも受け容れず、虚ろに、ただ虚ろに??


啼き声を導き出そうとするかのように容赦なく後孔を暴かれ、全身の筋肉がそれぞれの意志を持ったかのように細かく暴れ出す。
顔を歪め、涙を堪える。声を呑み込み、頭を振る。
どんな無意識下の拒絶も、背後の男から送り込まれる甘美な震動に打ち砕かれ、意味を失っていく。
「あぁ……、っは、あ、あ、あ……!」
己の内包する全てを融かされると錯覚する程の波動に、体だけはどこまでも昂ぶり、更なる快楽を求め、腰が浮き上がる。
弾かれたように肘を突いて起き上がり、解放を望む囚人のように眼前に立つ鏡を指先で掻いた。
姿見の中で爪を立てられた男は、藻掻く人形の青い瞳を見つめながら、傷を付けられたかのように、目を細める。
全身に汗を流し、一層激しく肉窟を苛みながら、項垂れ、瞼を堅く閉じた。
「……我が名を……??」
ガダラルは粘膜を抉られる感覚に翻弄され、自身がその言葉に抵抗の意を覚えたことに気付けなかった。
体内を灼熱に冒され、主と共に解放の時を待ち侘びるだけの人形と化す。
涙の浮かぶ目を見開き、短い声をひっきりなしに上げる。
何度も大きく仰け反り、髪を振り乱し、極みを迎えようとした瞬間、
「??ガダラル……!」
「……??!!」
掠れた声が聞こえると同時に最奥を突かれ、視界を覆う鏡が太陽を映し出したかのように目映く光り??
直後、汗に濡れそぼった体に強く抱き締められた。
中に欲望の迸りを注がれる度に、ガダラルもまた、シーツの上に、か細い声と白濁を吐き出した。



湯浴みを手伝わされ、自らも体を流した後、知らぬ間に整えられていたベッドに呼ばれる。
灯りの落とされた部屋で、ベッドと同じ幅の大きな枕に、ラズファードがもたれ掛かっていた。
バスローブを脱ぎ去り、裸になったガダラルはベッドに乗り上げると、気怠げに横たわる男に寄り添う。
二回目に呼ばれた時に一度だけ命じられた通り、逞しい腕に頭を寄り掛からせると、堅い胸板の上にそっと手を置いた。

ガダラルが、凍り付いた青い瞳でラズファードを見つめる。
その視線に気付いているはずの男は切なげに目を細め、口元を微笑ませながら自らの胸に置かれた白い手を取ると、その甲に優しく唇を落とした。
「心が凍てつき、動かぬのなら、魂を持たぬも同然、か。……私には似合いの慰み物だ」
ラズファードは静かに笑い、白い肌に口付けた後、目を伏せたまま、隣に寄り添う人形の名を囁いた。

ガダラルは名を呼ばれても瞬き一つせず、囁きを零した男に寄り添い続けた。

<終>

------- 鬼畜【どこですか?】【とんずら】【許して下さい。】
その上この人達は誰なんだ、って感じになってしまいましたヨ><
何はともあれ、ほし★えぬ様の素敵イラストのお陰で、いつもと違うカプ話を
書くという貴重な経験をさせていただきました。 ありがとうございました。
今後とも素敵なイラストが拝見できることを、楽しみにしております!

2007.3.10 anon赤エル拝






あ、あまりに興奮しすぎてリアル鼻血もの…(;´Дi`)スバラスィ ...ハァハァ
勝手に妄想裸図画陀絵?とかくっつけてみました………が、ああ邪魔だねぇ…うん、邪魔だわ。
★の脳内変換@自己満足ってことで放置おながいします、SSの挿絵ってムズカシス orz
すすす素敵なお話本当にありがとうございましたーっ!!!!!
(本当に邪魔だったんで画像は撤去しますたwww)

20070318 ほし★えぬ