ささやかな、嫉妬





三蛮族の襲撃に、アルザビの日常は戦場へと変わった。
数日に渡る昼も夜も無い攻防は必死を極め、しかし思いのほか傭兵達がアルザビに
待機していたため敵の頭は逃したものの、彼らの士気の高さも手伝って五蛇将ならびに魔笛は守られた。
皇国からの防衛の褒美といわんばかりにいつもより多めの戦績の支給に傭兵達は沸いた。
今夜は茶屋で夜通しの祝いが開かれるのは必然といえるだろう。



鎌を振り下ろし、炎の通り名を持つ男は安堵のため息をついた。
疲れた。それだけだった。
魔法の撃ち過ぎか精神的な疲労の方が大きい。
足がもつれ、ふらりと世界が揺れたが、その体を支えてくれる手があった。
「ルガジーン・・・」
呼ばれた男は優しく微笑む。自愛に満ちた目だった。
「長かったな」
「ああ・・・」
「勝ち戦とは、良いものだな」
ガダラルは無言で頷いた。
「今夜は私の部屋で飲もう。この喜びの声を祝杯に」





熱い湯が、疲れをほぐしてゆく。
数日振りの入浴で、ついつい長湯になりそうだ。
共同入浴場には他の将軍達はいたものの、
ルガジーンの姿は無かった。上層部への報告等で忙しいのだろう。
かくいう自分達も、被害状況の確認などですぐに戦場を引き上げることなど出来なかったが。
「寝ちまうなよ」
ザザーグが茶化すようにして湯に漬かるガダラルの頭を
ぽんぽんと叩いて先に上がっていった。一気に湯量が減る。
「・・・む」
彼らは彼らでどこか借り切って酒を飲むのだろう。
ふと、大きな窓を見ると、そこから差し込む光がまだ昼間なのだと教えてくれた。
自分の隊の宴会は明日にしよう。きっと、皆疲労で寝てしまいたいはずだ。
なにせ黒魔道士は体力が無い。ザザーグの部隊の連中など、
それこそ戦開けで宴会できるかもしれないが、そのまま床で寝てしまわないとも限らない。
あの巨体が大いびきで床に転がる姿を想像してクスリと笑った。



それに今夜は彼の誘いの通りルガジーンに会いたかった。
会って抱き合いたい。
あの男の肌に飢えている自分に気が付いていた。
浅黒い肌が熱く上気する、あの情熱が欲しかった。
「・・・なんだ・・・俺は・・・」
自嘲気味に笑うと湯で顔を叩き、部屋に戻った。



私服に着換えると厨房に立ち寄る。
休暇前に腹を満たそうと押しかけた兵士達に敬礼されつつ、手をだしてそれを遮るジェスチャーをする。
「これは、ガダラルさま。いかがなさいました?」
恐らく厨房で最も親しい男がガダラルに気付いたらしい。
「食堂長、厨房を借りていいか?」
「それは勿論でございますよ」
でっぷりと太った腹を揺すって、場所を開ける。
「部屋で飲もうと思ってな、肴を作らせてくれ」
岩塩とブラックペッパーををガリガリと挽いてカラクールの厚切り肉に擦り込み、
肉の臭みを消すハーブは粗みじん切りにして蜂蜜と合わせ、その肉を漬け込む。
付け合せのポポトイモの皮を丁寧に洗い、ワイルドオニオンも同様に皮を残して洗う。
「何の料理ですかな?」
「ん?創作だ。適当にな」
若い料理人達がその様子を見て「さすが羅刹と恐れられた方は・・・」などと言っているが、まあ無視でいいだろう。
「ところで・・・」
ガダラルが、こほん、と咳払いをする。
「て、天蛇将は食事を済ませたのか?」
「はて、こちらにはまだ見られてないですね。と、皇宮のほうで食事会が行われるようですな」
「ほう」
「宮廷料理人たちが、材料が足りない、と言って何か持っていたようですから」
「ふむ」
首を傾げる。
宮廷の豪華な食事をしてしまったら、多分自分の作った物など腹には入らないだろう。
それ以前に食事の用意をするとは伝えてはいなかった。
「まあ、いい。後で焼くからそのまま漬け込んでおいてくれ」
「かしこまりました」
厨房を出るガダラルにゆっくりと頭を垂れ、食堂長はまたせわしなく仕事を再開した。



部屋に寄りルガジーンの部屋の合鍵と、自前の白蜜酒を1本。
彼の部屋の前には、掃除を終えたばかりのメイドが大きなワゴンを押して去るところだった。
きっと新品のように糊の効いたシーツがベッドに広がっていることだろう。
各部屋の合鍵を束ねたものが、メイドの腰でジャラジャラと揺れた。
彼女が次の部屋に入り、その姿が見えなくなってから部屋に進入する。
別に盗みに入るわけでもないのだが、他人に見られるのは避けたかった。



掃除の終えたばかりの部屋は窓が開放され新鮮な空気に満ちていたが、
彼の愛用している香の残り香だけはかすかに感じられた。
ガラス板と真鍮でできた小さなテーブルに酒瓶を置き、小さな食器棚からグラスを2つ用意して伏せて置く。
ルガジーンはいつ戻るのだろう。あの生真面目な男のことだ、約束の夜までには戻ると思うのだが・・・。
「・・・む・・・」
ふと、マネキンに気がつく。
彼愛用の甲冑が飾られている、ということは。
一旦身を清めて、礼服にでも着換えてから皇宮へ行ったのだろうか?
本格的な晩餐会になっている気がする。
無駄足だっただろうか。けれど約束は約束。ガダラルはそのままソファに腰掛けて待つことにした。
先に酒をグラスに注いで、ちびちびと飲むことにした。暇つぶし程度にはなるだろう。
整然と片付けられた部屋をぐるりと見回し、デスクワーク用の黒檀の机の上に
積まれた書類に気が付くと、今どんな仕事をしているのかが気になってしまった。
少し覗く程度だ、と言い聞かせながら机に向かう。
それはいつもの通り被害状況や、街の警備に関する報告書や会議のまとめのメモだったりするのだが、
丁寧に書かれた文字に好感が持てたし、ここにはいない彼を傍に感じられた気がした。
机の上にはドライデーツの入った小さな菓子箱と
香を焚くための素焼きの器があったが、香は見当たらなかった。
机の引出しに閉まってあるのだろうと、特に気にもせず引出しを開けた。
その中には替えのペン、一まとめにくくってある羊皮紙、それと、一枚の写真。
「・・・?」
その写真は奥の方に入っていたものの、状態は良かった。
見てはいけない、そう思いつつも手に取ってしまう。



それはエルヴァーン女性の写真だった。
恐らく身分もかなりいいだろう。どこぞの令嬢か?きらびやかな宝石を身に付け、
贅沢にも髪飾りは生花でこしらえてあるようだ。
目が大きいせいか、幼さを残しているようにも見える。化粧はあまり濃くなく、肌が元々美しいのだと思う。
心の奥で、重い衝撃が走った。
せわしない鼓動が彼を支配する。
見なければ良かった、と軽はずみな事をした自分を責めて再び引き出しにしまうが、
一体誰なのかという疑惑が心を掴んで離さない。
実は別れた恋人?いや、本当は続いていて自分とはただの遊びではないのか・・・。
まさか、今会っているのだろうか・・・。
そうだ、可笑しい。
天蛇将を務めるほどの男が同性である俺を相手に本気にするはずがないだろう、と。
心臓の上に手を置き、呼吸を整えようとしたが、あまり効果は無かった。
よろめくようにソファに座り、酒を煽って頭を抱え込んだ。
いつの間にこんなに愛してしまったのか、自問してもはっきりとは解らなかった。
しかし、と思い直す。
いつも彼の自分を見る目は、真摯で本気だったろう。
抱き合えば、優しい言葉を言ってくれて、その言葉に嘘は無かっただろう。
それらがすべて演技なら、あの男は役者への道の方が向いてると思うし、
お互い忙しい日々を工面して会っているのだから、浮気の時間など無い・・・と思いたい。
それに、と思考を巡らせると、顔が熱くなった。
セックスだって、こちらが気絶することもしばしばあって・・・それでも足りないのか・・・と。
ヒュームじゃ物足りない・・・?
「なんて下品な事を・・・」
ガダラルは立ち上がり、苛立ちでドライデーツを口に放り込むと再び厨房へ急いだ。



食事している兵士たちはほとんどいなく、
給仕娘は勿論、料理人達もテーブルの片付けに忙しなく動き回っている。
余計な考えを断ち切るべく、料理を再開する。
肉はタコ糸で形を整えて、丸のままの野菜と共に、石釜のオーブンでじっくり焼く。
ストレスの発散には丁度いいので、パンの準備に取り掛かる。
サンドリア小麦粉、ライ麦粉、削った岩塩、オリーブオイル、
メープルシュガーにサンドリアグレープから取った酵母種。
練って練って、ガンガンと叩きつけて、100回くらい叩きつけると、
その鬼気迫る姿には流石の食堂長もあわあわと口を押さえた。
「そ、そろそろ発酵させても宜しいのでは?」
思わず口を挟んでしまうほどだ。
「・・・む」
遠巻きから若い料理人達が今度は「羅刹!羅刹来た!」などと騒いでいる。
ボウルに生地を入れ、濡れタオルを被せる。
ここは温かいから自然発酵で充分だろう。



次に魚をさばき、表面を炙るように網で焼いて余熱で火が通り過ぎないように氷水でさらす。
ラテーヌキャベツ、サンドリアカロット、ワイルドオニオンは千切りにして同じように水にさらしてざるに取る。
アプカルの卵の黄身の部分とオリーブオイル、ライスビネガーと岩塩、
ブラクペッパーでマヨネーズタイプのドレッシングを用意。
あまりの手際の良さに、皆、自分の仕事を放棄して厨房に集まってしまった。
「貴様ら鬱陶しいことこの上ないな」
冷やした炙り魚を良く拭いてスライスして小皿に取り分けると、
その上にドレッシングを糸のように引いて生野菜を盛り付ける。
「味見だ」
皿洗いの少年に差し出すと、歓喜の涙を流した。
「うまいっすー」
「そうか」
これなら肉好きのルガジーンでも喜んで食べるだろう。
自信作が出来た。
言い訳なら、食事をした後でも聞けるのだから。
「食堂長、パンは鉄板で焼いてくれるか?」
先ほどの生地を千切り、丸めて、平らに潰す。
ポンポンと重ねられていくそれを、食堂長はニコニコと鉄板に並べていく。
ぷっくりと膨らむと、食堂長も手際の良さなら負けてはいれん、
とばかりに次々に裏返し、あたりは香ばしい香りに包まれた。
「しかし、お一人で食べるには量が多すぎませんかな?」
確かに、ピタパンはざるの上にどんどん積み上げられていく。
「まあ、賄いにでもすれば良かろう」
後ろの方で歓声が上がった。
無論、二人分はキープしておくつもりではいるが・・・。
パンがすっかり焼きあがると、肉が焼ける頃に戻ることを告げてから再びルガジーンの部屋に戻った。
戻っていれば良いなとは思ったが、その姿は無かった。



軽くため息をつくとほんの少しあくびをし、そのままベッドに倒れこんだ。
そうだ、そういえば疲れているのだった・・・。
ゆっくりと、瞼は閉じられた。
本当は寝ないようにと思ったのに。再び目が覚めたとき、
今までのことが夢で彼が写真の女性の元へ行ってしまうのが現実ではないのかと
そんなことを考えてしまったから。
陽はまだ高く、彼を見下ろしていた。




さわやかな瑞々しい香りに気が付いて、目が覚める。
あまり寝ていないとは思う。



目を開けると、部屋の主がにっこりと見下ろしていた。
「ルガジーン」
「待たせてすまんな。寝てしまったのか」
「うむ・・・」
急に、唇を塞がれた。
「わたしの部屋に、美しい眠り姫が遊びに来たのかと思ったぞ」
「バカを」
そう言いつつも嬉い。ルガジーンは、やはり自分を愛しているのだと思う。
窓を見たが、ようやく陽が傾き始めた頃か。
ガダラルは覆い被さるようにしているルガジーンの首に腕を絡める。
会いたかった人が来たことの高揚感。
「どうした?」
「久しぶりだと思って」
「ん、そうだな」
柔らかい舌が、ガダラルの唇を舐めた。
「こ、こら・・・」
「明るいうちに、というのも良いかもしれんな」
形式だけの抵抗はすぐに見破られ、二人の舌は容易く絡み合った。
私服である二人は脱がしあうと簡単に裸になり、ルガジーンの指や舌はガダラルの皮膚の薄いところを攻める。
くすぐったいような、じんわりとした熱に次第に支配されるのが嬉しい。
こうして沼にはまるように溺れていく感覚は、快楽という名だと言う事を知っている。この男に教えられた感覚だ。
大きく無骨な手が無尽にその身を触れ、薄い唇が愛を囁くと、
ガダラルはおかしくなるほど熱いものがこみ上げてくるのだ。
それはいとおしいと思う気持ちだったり、時には涙だったり、実にさまざまな物だった。
ルガジーンが立ち上がり、ベッド脇の物入れからオイルの小瓶を取り出す。
先ほどまで翻弄されていたガダラルはやっと息を整え、彼が戻るのを待った。
再びルガジーンはガダラルに触れる。手
にはオイルをたっぷりとまとわせ、ガダラルの後孔に・・・と思わせてペニスにそれをまぶしつけた。
「ぁ・・・!」
予想しなかった彼の行動に、一瞬歓喜の声が漏れる。
ガダラルの半身を起き上がらせて、その後ろからゆるゆるとソレをいじり始める。
「ここをたっぷり可愛がってあげよう」
後ろから抱きしめられながら、彼が囁く。低くて、セクシーな男の声に体がゾクゾクと反応した。
ただ硬くなったばかりだというのに、オイルのせいでくちゃくちゃと音を立ててルガジーンの手の中で暴れている。
「・・・や・・だ」
「良くないか?」
頭をフルフルと横に振る、良くないはずが無い。
この音が理性を失いそうで、まるで挿入されてる時の音そのままなのだ。
上下に擦って射精を促し時にはゆるゆると撫でるように優しく触れると、彼の反応を楽しむ。
「ん・・・ぁ・・・っ」
ガダラルの顔は紅潮して、額にはじっとりと汗が浮き、息が乱れ始めている。
何かにすがらないとつらいのか、見られるのが恥ずかしいのか、ペニスをいじるルガジーンの腕に手を絡めた。
明るい部屋ですべて晒しているのが不安で、頭を振って俯く。
けれど、そこには恥ずかしい自分自身がさらけ出されて羞恥で目を閉じた。
ルガジーンは空いた手で、ガダラルの胸や太ももを撫でつつ、ますます手の動きを早めると
「ああ、・・・・あぁ・・・」
ガダラルの達しそうな声に、手を止める。
「・・・え・・・」
絶頂を迎える寸前で止められ、何が起こったのか、ルガジーンを見上げた。
その表情は意地悪っぽく微笑んでいて、またすぐに手は強くガダラルのモノを握って上下に擦り始めた。
「・・・!・・・っ」
少しだけの痛みが、また快楽への導きとなった。
くちゃくちゃ、にちゃにちゃ、と音を立て、
「ほら、濡れてきた」
言われるほどガダラルは追い詰められてるというのに、また、その手を止める。
「・・・意地悪・・・」
泣きそうになる。
快楽の波にさらわれてしまいたいのに、与えてくれない。
それを4回も繰り返し、5回目のイタズラでようやく達することが出来た。
5回目は、容赦がないと思うほど擦られ続けた。
酷い水音が自分自身から発せられ、鈴口から透明な液が漏れていた。そこを指先でグリグリと擦られると
「あっ、ああ・・・!」
一気に吐き出して彼の手を汚してしまった。
ハァハァと呼吸を整えて、後ろのルガジーンを見て頬を膨らます。怒っている、という意思表示だが
「明るい部屋で見ると・・・可愛いな」
全く相手にされない。
再び後ろに倒され、口付けられるとルガジーンが足の間に割って入ってきた。
彼のペニスが大きくそそり立ち、ガダラルの後孔に入りたそうにそこに触れている。
ルガジーンはぬるつく手を優しく這わせ、欲しがって口を開け始めたその穴にゆっくりと指をいれた。
「んん・・っ」
漏れた声は、舌と舌が絡まる悦楽か、久しぶりに何かを受け入れる中の快楽か。
ガダラルは硬く目を閉じ、暴れる指を楽しもうと集中始める。
2本目の指が挿入され、激しく出し入れされた。
「んっ・あっ・あぁっ・・!!」
顔を外してルガジーンを見つめると、男もまた、ガダラルを見下ろしている。
優しいその目にすべて見せてもいいのだという安心感からか、声を上げ、女のように良がる。



ガダラルのものは、また立ち上がっていた。
指が抜かれると、今度はゆっくりと熱い塊が入ってくる。
「あ、ああ、あぁぁぁ」
その感覚に、わななく。
気持ちが良かった。久しぶりに男を受け入れたソコが、浅ましいほどに悦んでいる。
つま先までビリビリと電気が流れたように痺れ、背骨が軋んだ。
ルガジーンはじらすようにゆっくりと動く。
「・・・っ・・・駄目だな・・・余裕無い」
「・・・うん・・・?」
「動いてもいいか?久しぶりですぐ達したい」
ガダラルは微笑む。男が今日は余裕が無いという。
派手な音をたて口付けると、宣言のとおりに激しく腰を打ち付けてきた。



湿った音と、男の荒い息遣いとが部屋を支配した。
浅黒い肌から汗がにじみ出、落ちる。
その体を倒して密着させると、こんなにも近いというのにガダラルは一瞬の孤独に襲われた。
あの写真の女性の顔が脳裏をよぎったのだ。
胸に切ないものが込み上げる。瞳は涙で潤んでいた。
この男を失いたくない、誰かに取られたくないという独占欲で心が支配されていく。
「ルガジーン」
彼を抱きしめる。
「・・・どうした」
体を揺さぶられ、自分も腰を擦り付けながら抱きついて宣言する。
「お前は俺の男だ、俺だけの男だ・・・!」
一瞬、ルガジーンは驚いたようにガダラルを見たが、その切なげな表情に微笑み掛けた。
「ああ・・・私は、お前のものだ」
歓喜の涙が、頬を伝った。
激しい口付けを交わし、ルガジーンに追い詰められていく。
ガダラルのペニスは彼と自分の腹の間で悶え、とろりとした透明な液を吐き出した。
体中が敏感になってしまい、全身が震えた。
ルガジーンの手が時おり膝を撫でると、もともと皮膚の薄いせいか体がビクビクと反応してしまう。
「あっ・あっ」
腰が蕩けてしまうのではないかと思うほど気持ちが良かった。
まるで腰だけ霧のように白くぼんやりと消えていくようなイメージをする。
手を噛んで快楽に耐える。このままずっと達さずに責めつづけられたら、それはそれで幸せな気がした。
でも、もう我慢できそうに無く。
前と後ろを責められて、こんなにも感じているのに達せないはずがない。
「ルガジーン・・・!もう・・・!」
「わたしも・・・く・・」
ルガジーンの腰が早くなる。
「あ、あああ、ああっ」
「ガダラル、ガダラル・・・!」
熱いため息のような声で呼ばれた名前は、聞きなれた自分のものではないような、そんな気がした。



「んん・・・っ」
腰を持ち上げられると、中のものを掻き出された。
本当は彼のものを出してしまうのは嫌だけれど仕方ない。
先ほどまでの熱い余韻で、ガダラルは動けずにいた。
「足がガクガクする」
乱れた髪も、綺麗に整えてくれて、大きいサイズのバスローブを着せられた。
「大丈夫か?」
「んー・・・」
ぼんやりとする。
ルガジーンとのセックスは怖い。自分が自分じゃいられなくなるから。
演技などする暇も無く、絶頂へと導かれる。
簡単に達してしまうのは物足りないかな、などと思ってしまう。
やはり、写真の女性が気になるのだ。
「疲れたか?」
優しい彼の言葉が嘘ではないのかと、再び猜疑心が持ち上がる。
「別に・・・」
顔を背ける。
「?・・・どうした」
「昼間、どこへ行っていた?」
部屋を留守にしていた時間、写真の女性と会っていたのではないかと、そんな嫉妬をする。
「謁見の間に。それから食事会になってしまったな。少し飲んだ」
「本当に・・・それだけか?」
「宰相にでも聞けば良い。どうした?」
宰相の名が出たということは、嘘はついていないのだろう。
「色々と、料理を用意していた・・・」
「そ、そうか・・・。いや、食えるぞ。」
「無理せずとも良い、宮廷料理には敵わん」
「夜に約束をしたからと、あまり食ってこなかったのだ。何を作ってくれたんだ?」
「・・・カラクールのローストと、近海魚のサラダ」
ぱ、とルガジーンの顔が輝いた。
「食べたい。食わせてくれ」
「・・・自分で持ってこい。俺は動けん」



ルガジーンは厨房に顔を出したため私服で、ガダラルはバスローブのままソファに腰をおろした。
肉を切ってやり、サラダを取り分け、酒も注いでやると目を細めて嬉しそうに料理を食べるルガジーンを見た。
「・・・美味いか?」
ただ、頷く。喋るのも惜しいのだろうか。
ガダラルはなんとなく食欲が湧かなかったので、ピタパンに肉を挟んで口に押し込んで酒で流し込んだ。
肉が美味いのか、先ほどからそればかり食べているのが気になる。
「野菜も食え」
サラダの上の部分を口に運んでやる。
「魚も食え」
下の部分も。
「パンも食え」
エクストラヴァージンのオリーブオイルをパンに染み込ませて、それも齧った。
酒を煽って、ようやく一息つく。
「美味い」
「・・・そ、そうか・・・」
平静を装うが嬉しいのは顔に出るようで、口元が緩んだ。
「カラクールは硬くて臭いが、これは食べやすいな」
「ああ、ハーブと蜂蜜で漬けたから」
なるほど、と呟くと付け合せの野菜に手が伸びる。
ポポトイモもオニオンも皮がパリッと焼けているが、ナイフで割るとなかからほっこりした白身が顔を覗かせた。
「バターとハーブのソースで食え」
熱々の野菜にバターがとろりと溶けて、食欲をそそる。
しかも皮で自然と蒸し焼き状態になっているので甘味が倍増している。
ルガジーンは、また目を細めた。
「貴殿は料理が上手いな。嫁にしたいほどだ」
「・・・貴様はバカだな」
嬉しいけれど、それは叶わぬ願いだ。
酒を煽ってため息をつくとガダラルはルガジーンから顔を背けた。
「そういうことは、自分にふさわしいどこぞの令嬢にでも言え」
「・・・なんだ?刺がある言い方だな」
ここで、ふとルガジーンが何かに気づいて立ち上がった。
「そうだ、忘れていた」
机の引出しを開けると、例の写真を取り出す。
「ここにあったのか・・・。しまった」
ガダラルは、訳もわからず、その様子を見ていた。



ガダラルの心に生えた嫉妬は、元はといえばその写真の女性とルガジーンの関係を妖しんだのが原因だ。
ルガジーンの隣からそれを覗いたが、まさしくそれは先ほど見た女性の写真だった。
「どこぞの令嬢、で思い出した。いや、ありがとう」
「・・・ハァ?」
「見合い話が来ていてな、断ったのだがじゃあ写真を返せ、と言われて、どこに閉まったのか忘れていたのだ」
「・・・・酷い話だな」
「しかし、この女性。よく見るとあどけないだろう。聞けばまだ17歳とか・・・自由に恋をしたい年頃だろうに」
「な、なるほど」
自分の中の嫉妬心が、小さくしぼんでいく。思いがけずそれは解決し、ガダラルの口から安堵のため息が出た。
「実は、先ほど・・・香を探してそれを見てしまったのだ」
「・・・そうか」
「俺意外に相手がいるなら、と・・・少し・・・」
「嫉妬してくれたのか」
「・・・す、するわけないっ」
ルガジーンは優しく微笑んだ。心の底からガダラルを可愛いと思っていた。
「貴殿の良い所は、嘘がつけない所だな」
「バカを言うなっ」
ルガジーンの手が、机の上の菓子箱に伸びた。やけに軽いことに気が付いたのだ。
「で、私のドライデーツはどこへ?」
「!」
しまった、という顔をして、ガダラルが目を逸らした。
「むしゃくしゃして食った。今は反省している・・・」






「こ、こんな所では・・・っ」
ルガジーンにお仕置きと称され、ソファの上で座ったまま足を広げられる。
バスローブしかまとっていなかったからそんな格好になったら、すべて見られているのと何ら変わりはない。
先ほどまで男を受け入れていた後孔にオリーブオイルを塗りこまれて、指を再び出し入れされている。
ゆるゆると手加減されているため、快楽には程遠い刺激だ。
「仕事の息抜きに食べるドライデーツが楽しみでな。
 知っているか?天日に干すことによって、栄養分は濃縮され・・・」
「つ、作るから・・・!」
ぬ、と深く指を入れられた。
「あぅ・・っ」
「それは勿論だが」
また、ギリギリまで抜かれる。
ガダラルの体がビクビクとうずいた。
「ぁぁ・・・っ」
「こうして、お仕置きも楽しいものだな」
「バカバカバカ・・・!」
再び挿し込み指をくい、と曲げると中の敏感な部分に触れた。
ガダラルの足が、ビクリ、と動く。
それに伴いペニスも硬度を増す。
唇を噛んで声を出すのを耐えるが、ルガジーンの指は執拗にそこを責めはじめた。
「ぅ・・・あっ・・・ん」
「キツイな、欲しいのか?」
「な・・にが・・・っ」
「とぼけるな」
キツイなら、広げなければ入らないだろう。円を書くように、じっくりと指を動かす。
鼻に掛かる息が漏れ、ガダラルがルガジーンに手を伸ばした。
「・・・早く・・抱け・・・・・・!」
先ほどの残滓が奥に残っていたのか、ドロリとしたものが指にからんできた。
「あ、あん・・・!」
ついでにと、ぐちゅぐちゅと掻き乱してやる。
「いい眺めだ」
体をすっかり広げ、ソファに座ったまま指を出し入れされていて、ペニスが立ち上がりふるふると震えている。
中からの刺激に慣れた体は抵抗する術も知らず、ずぶずぶと指を飲み込んでいく。
ルガジーンも興奮しはじめ立ち上がったモノを自分で抜くと、下から突き入れた。
「あ、ああああ・・・!」
腰を浮かせ、深く深く中に突き挿し、擦っていく。ゾクゾクと背中が粟立つ。
ガダラルの体も浮かすと、自分の上にすっかり座らせてやる。
彼の体重でルガジーンのものは容易に飲み込まれた。
「ぁーーー・・・・!」
「気持ち良いな・・・」
「・・・う・・・・・・ん・・・っ」
ルガジーンが頬や瞼に唇を落として、繋がったまま暫し抱き合っていた。
「妬いたか?」
「・・・」
「妬いたんだな」
コクリ、と控えめに頷く。
「本当に可愛いな・・・。愛している、本当だから安心していい」
「だ、誰が・・・安心など・・・!」
「不安なのか?」
ガダラルの髪を撫ででやると、恥ずかしそうに目を伏せた。
「もう、空が赤い」
促されるように窓を見ると、顔を上げた隙にと、頬に口付けされた。
「ん・・・」
「夜は長いぞ・・・?覚悟はいいな?」
部屋も先ほどより暗く、そろそろランプが欲しいほどだった。
ソファに横にしてガダラルを寝かせると、片足を持ち上げてそのまま腰を動かす。
「ん、んん・・・」
甘い声が、闇に溶けていく。
「貴殿が一番好きだ。可愛い。愛している」
激しく、撃ちつけ始める。
「あっ!あっ!」
その動きのたびに、ガダラルの声が高く響く。
「溺れていくのが、自分でもわかる。どんな時でも、戦場でも想っている」
「あ・・・あああ・・・」



また、中で出された。

体を裏返され、肘掛に尻を持ち上げられる。まさか、と思ったが
「あーーーー・・・!」
そのまま後ろから貫かれた。
「あっ!やめ、中が・・・!」
残滓はそのまま残されていて、動かされるたびにぐちゃぐちゃと音を立てた。
その音に酔いそうだった。
ガダラルのペニスも、バスローブに精液を吐き出し、なおも弄られている。
身を屈めてはいたがそんなことはお構いなしか、ルガジーンの手は激しく動く。
「あっああっあああ」
声が抑えられなく、口からは唾液がこぼれる。
バスローブを噛んで耐えるが、すぐに衝撃が脳天を襲った。
角度を変えて、責められている。
「んんっ・・・ん!」
それは苦しいほどなのに、もっとルガジーンを味わいたくて自らも腰を振っていた。
「嫉妬などしなくていい・・・」
ルガジーンの声を聞いて、ガダラルは安心するかのように気を失った。



気づいたら真夜中だった。すでに月は高い位置にあり、薄手のカーテンは風にふわりと揺れた。
「ん・・・」
男は隣で寝ていた。
いつの間にかベッドに運んでくれたらしい。
テーブルの料理はほとんど片付けられていたから、あの後一人で食事をしたのだろうか。
お互い、疲れていたのだ。
何度も愛してると言われ、嫉妬など無駄なものだと理解した。
「ルガジーン・・・」
眠る男の頬を撫でつける。
まだ、彼のように愛の言葉を言うことは出来ないけれど。
「起きろ、夜は長いんじゃなかったのか・・・?」
聞こえていないだろうと思って、冗談でおねだりをする。
その手を、掴まれた。
「・・・聞こえた」
「・・・な、起きていたのか・・・!」
「些細な事でも起きるように出来ている・・・ガダラル」
ずい、とルガジーンの顔が近づく。
「寝ない覚悟は出来てるな?」
「無理無理無理」
ブルブルと顔を振って拒否するが、逆に手を引かれてしまった。
ガダラルは理解する。



もう逃げられないな、と。