熱帯夜





ゼェゼェと肩で息をし、下半身の汚れを互いに拭いあうついでに、額に浮いた大粒の汗も手で払う。
その手首を掴まれ、また、ベッドに押し付けられると、否応も無く、抱かれる。
男の声はいつもの通り優しく、慈愛に満ちてはいた、が。
繰り返されるこの行為はすでに室内の温度の高さと、湿度によって息苦しさも伴いはじめていた。
バカ、とか。辞めろ、なんて言葉は今日のルガジーンには静止の言葉ですらない。
言えば言うほどに、男は猛り、益々ガダラルを強く抱いた。
こんな暑い日に何故わざわざ激しく交わるのか。
体内を出入りする男の性器の力強さを感じながらも、ガダラルは、もう、力尽きてされるがままになっていた。
ルガジーンが声を押し殺すたび、早くイけ、中で良いから、
早く終わらせろ。と懇願し、精液を中に流し込まれ、腹や背に掛けられた。
「発情してやがるのか・・・ッ」
何度目かの終盤で悪態を吐き、ようやくルガジーンに開放される。
「畜生、ドロドロじゃねェか・・・!」
仰向けのまま、男を睨みつけると、相手は汗を振り払う程度に頭を振り、大きく溜息を吐いた。
多分、この男なりに疲労しているのだろう。
じろり、とガダラルを見ると、また覆い被さってくる。
「な・・・!やだ・・・っ!もう辞めろ・・・ッ!」
手を突っぱねて拒んでは見たものの、疲れきったその腕にはろくな力など入らなかった。
このまま抱かれつづけたら、きっと死んでしまうだろう・・・とすら覚悟を決めていた。



ところが男の逞しい体は、いとも簡単にその腕を跳ね除け・・・すっと、抱き上げられる。
「は、離せっ」
全裸のままもがき、その腕から逃げようとするものの、口付けられて、思わず身を竦めた。
何度もして、何度もされているはずなのに・・・。
その行為はやけに新鮮で、ガダラルは甘えるように腕を彼の首に絡めた。
溜息を漏らし、熱の帯びた目で見上げれば、ルガジーンはいつものように、やさしく微笑んでいた。
密着した体が、熱い。
熱で汗を生み出し、じっとりと二人の肌を吸い合わせた。
「暑いな」
「・・・な、夏だからな・・・ッ」
「汗をかけば涼しくなると思ったのだが、それほどでもなかったな」
「は・・・ハァ?」
ルガジーンが至極真面目に馬鹿馬鹿しい事を呟いたので、思わずガダラルは素っ頓狂な声を上げていた。
「一時の涼の為に、俺は犯され殺される覚悟までしたのか・・・?」
「穏やかではないな・・・。快楽は共有したほうが良いだろう?」
その表情は「貴殿も充分に楽しんだと思うのだが?」とでも言いたげに、きょとんと。
それでも、ガダラルの体に付着したその汚れを改めて見ると、
「シャワーでも浴びるか」
と、小さな体を抱いたまま奥へと歩き出す。勿論ガダラルが抗議した所で、その体はびくともしない。
消耗しきった体力を、無駄な事に使うのは馬鹿げている。
そう踏んで、ガダラルはあえてされるがままにしていた。



シャワーの低温は、火照った体に酷く心地良い。
海面に石鹸をこすり、泡立て、ルガジーンは丹念に恋人の体を洗った。
思えば、凄い事である。この国の治安を守る将軍が自らこうやって何者かの世話をするなど。
しかも、楽しそうに。
ルガジーンはガダラルをその足で立たせると蕩けるような口付けをしかけ、
その媚態に興奮をしたのか、また、彼の中に押し入って来た。
「貴様、いい加減に・・・」
そうは言っても、その体は拒みはしなかった。
中はまだ、ルガジーンの吐き出したもので滑っている。挿入は容易であった。
「捕まって」
「バカ・・・ッ」
シャワーに体を叩かれ、立ったまま犯される。
しがみ付き、何度も上下に揺さぶられて、結局ガダラルの体の深い部分は疼きを止められない。
「ぁんっ・・・あっあっあっ・・・っ」
声は水音にかき消され、けれどその表情は変わらず色気がある。
濡れた口付けを交わし、潤んだ目で見つめられてどうかしない男などいるのだろうか・・・?
そう、思わせるほどに最中のガダラルは従順でうつくしい。
ルガジーンが動くたび、中のものが泡だって少しづつだが太股を伝って流れ落ちた。
それは二人は気がつかなかったが、随分厭らしい光景だ。



何度めかの交わりを終えて、ようやくベッドに横たえられた。
ルガジーンは世話好きだ。勿論、ガダラルをここまで疲れさせた責任もあるだろうが、
シーツを新しいものに取り替えてざっと洗い、数時間前にこの部屋を訪れた時の状態のベッドに造り替えた。
夜着に着換えさせられ、アロマオイルに火をつけて部屋の明かりを
消してまわるルガジーンを目で追うと、眠気がこんこんと沸き起こった。
酷く抱かれた。そこに愛はあった。だから拒みきれなかったのだが・・・。
「俺は・・・寝るぞ・・・」
「ああ、お休み」
結局、汗をかいたからなのか、シャワーを浴びたからなのか、
良くは解らなかったけれど、幾分涼しくなった気がする。

けれど
「隣に来るな!暑い!!」
ベッドに潜り込もうとしたルガジーンは拒まれ、苦笑しながら床で寝ることになった。
暑いから、まあ、それで良いか。と諦め掛けたところに、ガダラルが口をへの字に曲げ
「・・・畜生、ベッドはすぐ熱がこもる・・・」
とかなんとかもっともらしい言い訳をしながら、ルガジーンの隣に枕を並べた。
「触ったら殺す」
物騒だな、と呟いたが、すぐにガダラルから体を摺り寄せ・・・。
「おやすみ」
ルガジーンの声にかすかに頷くと目を閉じた。