八つ当たり





あの二人が朝から、誰もいないものと思ってやけに接近し、談話を楽しんでいた。

偶然見た私にはそれが当てつけのようにも見え、腹立たしくもなった。



側近を呼び、部屋の鍵をかけ、頬を叩きつけ、有無を言わさぬよう、服を剥ぎ取った。
側近も私の腹の虫の居所が悪いものとすぐに理解して、大人しく身を委ねてきた。
自室の特別にあつらえた机の上で覆い被さり、その薄い胸に射精をする。



荒く息を吐いて、爪を噛みながら、側近は私に言う。


「また、代わりにしてるんですか?・・・別に、どうでもいいけど・・・」
後半はわざと聞こえないよう、小声で言ったらしかった。
私は無言でさっさと装束をまとい、何事も無かったように椅子に腰掛ける。
机に乗ったままの側近の乱れた体が執務に差し支えた。



「ラズファード様ぁ・・・もっと、下さい」
頬を赤く染め、やけに甘ったるく撓る声が一層私の気分を害し。
「欲しければ自分でどうにかしたらどうだ?」
にやりと笑うと彼は机の下に潜り込み、私のペニスを引き出すと、美味しそうに咥えた。
先ほど射精したばかりで、それはだらりとぶら下がったままではあった。



彼は恐らく、こういった行為が好きなのだろう。そう思わせるほどに愛撫だけをしつづける。
再び起つまでには時間のかかりそうな、ゆるい愛撫。
「僕・・・コレ好き・・・」
いつまで舐めても減らない夢のような飴玉のように、ただそれを咥え、舐め、しゃぶる。



「おかしな趣味だな」
「ラズファード様だって・・・あ・・・は・・・。あの方をお好きなら奪ってしまえばいいのに・・・んむ・・・」
「そういう趣味は無い」
「・・・嘘・・・。僕を、あの方に抱かれる自分だと、そういう風に思って抱いてるんでしょ・・・」

かも、しれんな。


あの男を抱きたいとは思わない。
かといって、あの男は男に抱かれるのを良しとする男ではないだろう。
だからといって、誰でも良いから抱く男ではないと、それも解っている。


「おっきぃ・・・」
涎を垂らして微笑む側近の顔が私の目の前にあり、椅子に座ったまま彼を貫く羽目になった。
「あーーー・・・・!ぃい・・・っ!おっきい、いい・・・ッ!」
私にしがみ付き、自分の中の煽動でだけで快楽の海に溺れそうになっている。
彼の尻を持ち上げ、出し入れを手伝うと、私に跨った両足がビクリと動いた。
「あ・・・っ!あぁん・・・・っ」
女のように声を上げ、女のように腰を振り、頭を振り、体を震わす・・・。
このようなことが私に出来るとは到底思えない。
やはり、あの男を想うだけで決してその願望は叶う事は無いのだろう。



部下の媚態を前に、やけに冷静な私がいる。
彼が私で、私があの男なら・・・。勝手な妄想で、あの男を汚す。
私の短い髪を掻き毟って、口付けを求めてきた。
「ラズファード様、好き、好き、好き・・・っ!」
「・・・そうか・・・」



叶わない恋はどちらも同じで、まるで傷を舐めあっているかのようだな。
「気持ち・・・いいっ・・・イイ・・・・あぁぁ・・・いい・・・・!」
絶叫を抑えるように低く叫ぶと、深く舌を絡ませるまま、果てた。





「・・・お前を抱くと、空しさだけが残る」
「・・・僕もですよ」
側近は下半身を剥き出しにしたままソファにぐったりと寛ぎ、また、爪を噛んだ。
「僕、いつも一人でシてるんです。ラズファード様にして頂いてるって思って」
私は水タバコをふかし、彼の言葉を黙って聞いていた。
「妄想のラズファード様はすっごく優しいんです。キスも自分からしてくれるし、僕の名前を呼んでくれる。
 笑いかけてくれるし気遣ってくれます。色んな格好のまま、
 ペニスでいっぱい突いてくれて。・・・現実と正反対」
彼は爪もろとも指を齧った。
「気持ち良くなって、イっちゃうけど、でもやっぱりそれはラズファード様じゃないから、空しくて・・・。
 でも現実に抱かれてもやっぱり空しい・・・」



私の口から白い煙がほう、と流れた。
「僕じゃないなら、僕のことなんか呼ばないで良いのに、嫌なのに・・・
 でも僕・・・やっぱり、ラズファード様が好き・・・。
 体がどうしてもラズファード様を欲しがって・・・ーーー・・・ぅっうぅ・・・ッ」
私がただ黙って煙を吐いていると、彼は無駄だと思ったのか、その手首を噛んで声を抑えて泣いた。




「心だけは、他人の好きには出来ぬ」


救いにもならないその言葉を、私は容赦なく言った。
それはまた、私への断罪。




あの男が、こんなにも欲しい。