一人寝





その夜はいつものように、何事もない夜だった。
最近忙しく「二人きりで会っていないな」そう呟いた男が、
「仕事が早く終われば部屋に行きたいのだが」そう、言いよどんだ。
つまり、確かな約束ではない。
そんな夜は期待は出来なかった。期待し、男が現れないまま朝を迎えるのはきつい。
こんなにもあの男に身をゆだねる事に幸福を感じることを認めるには少し、プライドが高すぎた。



だから、この日も決して期待はせず、勤務が終われば食事をし、
風呂を済ませ、たしなむ程度の酒を舐めてベッドに入った。



少しのアルコールが、自分を落ち着かせ、やがて眠りに誘う。
それを期待してアルコールを得た。・・・はずなのに。
目を閉じても、眠れず、脳裏にあの男の顔、声、姿ばかりが浮かんだ。



どうしよう。
心で、呟く。



あの男の手筈をすっかり覚えてしまった体が、じんと疼いた。

夜着の上から体をまさぐる。



首筋を這わすように撫で、ゆっくりとその胸にある二つを手に触れた。
あの男はここを丁寧にいじり、舐める。最初はバカにしていた。女ではないのだぞ、と。
なのに立ち上がったそれは、やがて明らかな快楽を得るようになっていた。
自分でいじったことなど、勿論無い。
こわごわと、ゆっくり、それを摘む。指を動かし、捏ねる。
下から擦り上げると、思わず声が漏れた。
認めたくは無い事実に、少し驚く。自分でいじって声が出るなんて思ってもみなかった。



ダメだ、辞めよう。
これ以上して、もし射精を迎えてもきっとそれだけでは満足できないと解っている。
今、中途半端なまま眠ってしまえば、朝には何事も無かったかのように目覚めることが出来る。
けれどこれ以上手の動きを進めたら、きっと中の疼きはいっそう強くなる。
あの男が欲しくて堪らなくなる・・・。



頭では冷静に止めようと思っているのに・・・。
「・・・ぁ・・・・」
掠れる声がすっぽりと被った羽毛布団のなかで響く。
右手は既に自分自身を掴んでいた。
ダメだ、何度も制してるのに。
なのに、手を止める事も出来ず、じっとりと額や背中が熱い。
思考とは逆に左手の指を舐めて唾液で濡らし、後孔へと忍ばせる。
ゆっくりと、指を進める。



浅い筈のそこでも充分な快楽があった。
体がビクリと震え、思わず
「ルガジーン・・・!」
男の名を呼んでいた。



「うん?何だ?」
「来・・・な、何故居る!」
「仕事がはねれば行く、と。そう申したではないか」
「あ・・・ぅ・・・・。来ないものとばかり・・・!」
「続きを見せていただきたいのだが?」
「バ、バカを言うなッ」



思わずその声で跳ね起きてしまったが、私服に着換え、風呂の後の濡れ髪を
ざっと縛っただけのルガジーンが、やや楽しそうな顔でガダラルの自慰を見ていたのである。
「やはり貴殿は私のとりこだな。こんな時にも私の名を呼んで」
嬉しそうにくつくつと笑うのが、ガダラルの気に食わない。
「色っぽい姿だが、抱いても?」
あ、と改めて自分の姿を確認する。
夜着ははだけているし、乳首は感じきっているのかピンと立ち上がり、自身は半立ちだ。
おまけにその表情ときたら。
「切なく声を上げていたな。目が潤んでいるぞ」
「畜生・・・ッ」




こんな切ない思いをさせて、黙って見下ろしていたなんて。
憎らしい気持ちと、部屋に来てくれた嬉しさがごっちゃに混ざって、思わず首筋に齧りついていた。