デザート





♪シュトラッチー・シュトラッチー♪
♪ボクの好きなものシュトラッチー♪

♪甘い甘いよシュトラッチー♪
♪美味しい、虜さシュトラッチー♪




食堂のスタッフも休憩を取る夕刻、ミリが大声で歌っている。
おやつの催促だ。
ガダラルは自分の頭を抱えるようにし、耳を塞いだ。
「白門まで従者を遣わせたらどうだ?」
ルガジーンのもっともな提案にブーブー唸る。



「ガダラルが作ってくれなきゃヤダヤダヤダヤダ」
「・・・だ、そうだ」
「冗談ではない、忙しいのだ、俺はッ」
「ヤダヤダヤダヤダッ」
「ガキか貴様!」
「そんなに美味いのか?茶屋のもなかなかの味だと思うが」
ミリはまたしてもブーブー唸る。
「ダメ!ガダラルの作ったやつが一番美味いの!」
「ほう」
「信じるなッ!」
「パリっと焼けた表面をスプーンで割ると、
 あぁ・・・とろけるようなお米のあまぁーいクリーム・・・ふにゃー」
「そんなに美味いなら、私も食べてみたいが・・・」
「無塩のバターを混ぜて、少しコクを出しているだけだ・・・」
「ふぉお、あのコクはバターだたったのかッ」
「あと、少しメープルシュガーを混ぜると風味が良くなる・・・」
「ほう、美味そうだな」
「・・・コツは教えた。貴様等で作れッ」
「できるわけ無いじゃん!!」
「できるわけ無かろう」
「威張るなッッ!!」





結局、ガダアルが厨房に立ち、かくしてシュトラッチは二人の前に供された。



「ふぉぉ・・・いい香り!美味しそうーーー!!」
「ふむ、確かに香りが茶屋のものとは違うな」
二人揃って「頂きます」と、深々とシュトラッチに
頭を下げてる間に、ガダラルは飲み物の準備をする。
カウンターに二人並んで座り、満面の笑みを浮かべてスプーンを口に運ぶ。
料理人が一番嬉しい顔だ。
「美味いか?」
「さいっっこう!!」
「うん、茶屋の味を越えてるな、素晴らしい味だ」
「たかだかシュトラッチに大袈裟な」
ガダラルは苦笑いを浮かべつつも、
二人の反応は彼への料理への「評価」である。素直に受け取ろう。



水とセルビナミルクの入ったミルクパンが煮立った所で細かくした茶葉を入れて煮漉し、
カップに注いでからシナモンの粉末を振り、さっぱりめのチャイをミリに出してやる。
シュトラッチが甘いから、砂糖は無し、だ。
「ほら、熱いから気をつけて飲めよ」
「おお、さっすが気が利くぅ!あんがと!」
と、ミリの口元にシュトラッチのクリームが付いているのを見つける
。いい年してして食べこぼしおって・・・。などと心で嘆きつつ、
彼女がチャイに手を伸ばした隙に、指でクリームを掬い、自分の口に持っていった。
「ん、上出来だな」
一連の行動に隣のルガジーンは目を丸くさせている。
「わぉ、ボク、良く食べこぼしちゃうんだよね。エヘヘ」
二人にしてみたらそれは自然の行為なのだろうか。
普段食べこぼしなどしないルガジーンである。
まるで兄妹のような仲の二人を微笑ましくも思ったし、
過去の荒んだ彼を知っているから他人とこうして触れ合う姿を見せられるのは、少し複雑だ。
「お前にはコーヒー」
同じようにルガジーンの前にカップを置く。
「あー、お腹いっぱい。ご馳走様!」
ルガジーンはまだ半分くらいしか食べてないのに、ミリの器はすっかり空になっていた。
「また作ってね!」
カウンターから空いた容器をガダラルに渡し、満面の笑みで食堂から出て行った。
これからまた、持ち場へと就くのだろう。



「忙しない事だ」
ガダラルは自分にもチャイを淹れ、ルガジーンの隣にどっかりと腰をおろした。
「食べるか?」
「いらん。太る」
「ははは」
「食事も山のようにとって、毎日間食もして、何故太らないか不思議なヤツだ」
チャイをずず、と飲み、じっくり味わうようにシュトラッチを食べるルガジーンを見た。
その視線に気がつき、ルガジーンは
わざとシュトラッチに指を突っ込むと、自分の口元になすりつけた。
ガダラルはその彼の行動が不可解だったが、「なるほど」と、
笑うとその口元を舐め、シュトラッチを舌で取ってやる。
「妬いたか?」
「少し、な」
ニヤリと笑うガダラルに微笑み返すと、ルガジーンはまた、スプーンを口に運ぶ。
勿論、食べこぼしなどはしない。



頬づえをついて、この男が妬くなんて、と少し嬉しい気持ちにもなったのだが、
ふと視線に気がついてそちらを見ると・・・。
「ミ、ミリ・・・!」
食堂の扉のほうでミリが親指を立ててニヤニヤ笑っていた。
「あっっまぁぁぁ〜〜〜〜〜い!」
「バカな事を言ってないで、さっさと持ち場に就けッッ」
「へっへっへーーんだ。ご馳走様!」



なんとも平和なスナックタイムであった。