痴漢 | |
「ルガジーン」 誰もいない回廊で、呼び止められ、声の主を探す。 「どうした、炎の」 赤い装備で身を固めたガダラルがそこにいた。 「それが・・・」 いつもは思ったことをズバッと言いのけ、性格がきついとか 散々言われているガダラルではあったが、なぜか今回は歯切れが悪い。 「どうした?」 「き・・・気のせいかもしれんが・・・その・・・最近・・・痴漢にあっているようなのだ・・・」 「殺すか」 聞きなれない言葉を耳にし、ガダラルは思わずルガジーンを見上げた。 「ンッ。ゴホン。・・・あーーー・・心の声か。驚いたな」 「驚いたのはこっちだ・・・」 ガダラルの気のせいでなければ、どうにも最近 市街戦の混乱に乗じて、彼の体を不用意に触るものが居る。 ・・・気がする、といった内容だった。 「ほう」 「・・・キモイ・・・」 「触りたい気持ちはわからんでもない。・・・っと。心の声が・・・ゲフゲフ」 「・・・・・・」 「何処を触られる?」 「・・・尻とか・・・腰・・・お、おい、これはセクハラだぞ!」 「いつもセクハラ以上の事をしてるではないか^^」 「・・・・ッ!シネシネシネ・・・・・・!」 「しかし、私的に面白くない話だな」 「だろう、魔法の詠唱も中断されまくりだ!」 「よし、配属される不滅隊員に不埒な行為をしたものは捕らえるよう宰相に話しておこう」 そういうことになった。 かくして。 不滅隊員の活躍により、数名の傭兵が捕らえられたのだが、 それらは「ガダラル親衛隊」と呼ばれる、競売エリアでの顔なじみばかりであった。 「な、なぜ貴様等が・・・!」 実は傭兵嫌いを公にしているガダラルも彼らの働きには 多少なりとも感謝していたのではあるが、この状況から酷く裏切られた気分へと打ちのめされた。 「同じ市街を守る身として困ったものだが・・・・・・件の猫社長に苦情を言わねばなるまいな」 ルガジーンの声。件の猫社長、で傭兵等は身をすくめた。 「冗談じゃゃないです。私たちだってガダラル様をお守りするためにお尻を撫でているのにッ」 「な・・・っどういう意味だ、このクソ樽!」 「背伸びして手を伸ばすと丁度いい位置に尻が(*´д`*)ハァハァ」 「ヒィィィ」 思わずルガジーンの背後へと隠れる。 「ぷりっとしてるよねー」 「してるよねー」 傭兵達がその尻の触りごこちに相槌を打つと、ルガジーンの拳がわなわなと振るえた。 「貴公ら、速やかに炎蛇将の尻を撫でた理由を述べよ」 さすがはアルザビの守護神。その声は荘厳にして、彼らを震えさせた。 「だってー、ね」とはヒュームの女性。 「さわり心地もそうだけどよォ」と、エルヴァーン男性のシーフ。 「敏感すぎ!!」ミスラ。 「この前だって、「ひゃうっ」とか言って!」 「うっはwたまんねーw乗って「らめぇ」って言わせてェェェwww」 勝手に盛り上がる傭兵たちへファ・イ・ガ〜ッ!!の 構えをするガダラルを後ろから羽交い絞めにし、ルガジーンは 「反応が良いのは仕方ないにしても(私が仕込んでるからな)、行動に出すのはどうかと思うが」 「えー、だってぇ」 「俺たちィ、ある日良い事に気がついたんス」 「ほう?」 「痴漢すると感じちゃって詠唱が止まるッッ・・・・てことに」 「すばラシイ」 ルガジーンの口からは、思わずアヴゼンの口調が出てしまったわけだが。 ガダラルは頬を膨らませて怒っていた。 「なんだとっ!俺は黒魔道士だッ!詠唱して何が悪い」 「しかし貴殿の魔法は、なんというか・・・なぁ?」 言葉を濁しつつ、捕らわれの傭兵等を見ると、 彼らもルガジーンが何を言いたいのか解ったようで一斉に頷いた。 「ち・・・っ!畜生畜生畜生!!!役立たずの皇国兵め!ボンクラ傭兵めーーー!!」 そのままいずこかへ行ってしまった。 「カワイイ」 「あ、将軍泣いちゃったね」 「ないちゃったね」 「天さんのせいじゃね?」 「・・・な・・・!」 痴漢行為を働いたものへの私刑を堪えていたのに、なんと酷い言い草か。 「でもよォ、これで解ったしょ。俺ら無罪だぜ」 無罪、とはいえぬが・・・。彼らは彼らでガダラルを守るために尻を撫でていたのだろう。 行動はどうあれ、そこには彼らのガダラルを思う気持ちが見え隠れしていたわけで・・・。 ルガジーンは慈悲深い表情で 「それでもアレに触った事には変わりないので、猫社長からキツクお灸を据えられるように!^^」 精一杯の優しさに傭兵は 「鬼ーーーー!!!」 抗議していた。 尻とそれは別らしい。 □ |
|