狸寝入り





シャワールームに入って、石鹸が切れていたことを思い出す。
棚に入っていただろうか、そう思い、扉を開けると、
いつもとは違う銘柄の石鹸が目に入ってきた。
これで良いか、とその石鹸を手に取る。


"ロランベリーの香り"

ああ、これはルガジーンがくれた物だったな、と気付く。


普段はオリーブだけで作られた石鹸を使っているせいか、
果物の香りのそれは、少し匂いが強いようにも感じた。
それでも、今夜は彼が部屋に来るといっていたから・・・セックスの期待はあった。
体を入念に洗う。
なんだか少し恥ずかしい。



ゆったりとした夜着に着換え、部屋に戻ってはみたものの、
待ってもルガジーンは部屋に訪れなかった。
仕事が終わらないのだろう、湯冷めしてしまう、と少し疲れた体をベッドに横たえた。




ベッドの脇のランプに明りを灯し、本を読む。
静かすぎる部屋は時おり、外の喧騒も聞こえた。
ふと、耳を澄ますと、廊下からしっかりと地を踏みしめて歩く足音が近づき・・・。
ガダラルはふと、戯れに寝た振りをする。


ノックの音、彼の、穏やかに忍ぶように自分を呼ぶ声。
ゆっくりと、開く扉。

ぎゅ、と瞼に強く力を入れる。
キィ、パタン、コツコツコツ・・・。


ほんの少しの、ため息。

「寝て、しまったか」
そのまま、ガダラルの首すじに軽い口づけ。
「食べてしまいたくなるような香りだな・・・」
うっとりとしたような、ロランベリーの香りに酔っていたのか。




ガダラルは彼の手を引き寄せ

「早く、食え」


甘いその果実のように、甘く誘っていた。