草原





草に頬を撫でられ、ふと薄く目を開ける。
どんな些細な事でも眠りからは即目覚める、
それはルガジーンの体に染み付いた戦場での特技だ。
やけにまぶしい太陽の光を遮るかのように、
一本の樹が聳え立ち、丁度良い影を作り、二人を守る。
そっと、気付かれないように隣の彼を見ると、座ったままで本を読みふけっていた。
ルガジーンの視線には気が付かない。



なにやらブツブツと、小さな声で言葉を紡いでいる所を見ると、
何か呪文の暗記のようにも思えてくる。
夢中で、いつものように不機嫌そうに。





数日前のことだ、五蛇将が詰め所での会合に集まり、
ガダラルはルガジーンの顔色が優れない事を指摘した。
そういえば、蛮族が三連続で押し入ってきたため、皇都防衛の要である彼は
ろくに休んでいなかったのではなかったか、とルガジーン以外の4人は口を揃えて言った。
まあ、しかし、疲れてるのは皆同じだろう、と相変わらず穏やかに笑って見せたのだが、
ミリは白魔道士の立場から、強く休暇を取る事を望んだ。
回復のエキスパートであるミリに押し切られ、ルガジーンは短いながらも休みを得た。



そして、何故かナジュリスも笑いながらガダラルをルガジーンの隣に押し出した。
きょとんとする二人に
「チョコボに乗ってデートでもしてきたらいかが?」
にっこりと微笑む。
ガダラルは顔を赤くして抗議したのだが、ザザーグもまた、それには賛成をした。
「そりゃいいな。暫く敵さんも来ねぇだろうしな。ゆっくりできる場所を知ってるぜ」







そして今、この草原にいるのである。
ザザーグが若かりし頃、ここで拳を鍛えたのだと言う。
確かに、その一本木には大きな拳の跡がいくつか残され、心なしか傾いていた。
「アイツはガキの頃から脳筋か」
ガダラルはそう悪態をついたのだが、その日陰は気に入ったようで
座り込むと本を取り出して読みふけってしまった。
なんだ、私は放置か。
などと言わず、ここまで乗ってきたニ羽に餌と水を与え、離してやる。
チョコボは自由にこの草原で運動を始めるだろう。
ルガジーンは仲睦まじく遊ぶ騎羽の姿を確認すると
、ガダラルの隣で絨毯のように生え揃った草の上に横になる。
「良い天気だ。眠くなる」
「寝ろ寝ろ」
持ち込んだ本は大層面白いらしい。
ルガジーンになどわき目もふらず手を「シッシッ」と振り、まるで邪魔者のように扱う。
勿論、ガダラルからすればルガジーンを
ゆっくりと休ませたいから本を持ってきたのではあるが。



どれほど寝たのかは正直解らない。
大樹の陰は、さほど動いてはいなかった。



寝返りを打つふりをして、ガダラルに密着する。
嫌がられるかな?・・・とも思ったが、ガダラルは
本から目を離さず、ルガジーンの形の良い頭をポンポンと撫でた。
つい、その手に触れると
「寝ろと言うたろうが・・・」
少し呆れた声が聞こえたが、彼にしては優しい目でこちらを見ていた。