言えない一言





彼が強情なのは良く知っている。
だが、こんな時くらい「言って」欲しいと、思うのだが。
それとも、快楽の前には言葉などいらないとでも、言うのだろうか。




甘い言葉と、口付けと愛撫で、ようやく彼の体を得る。
最初は我慢していたのか、呟くように吐いていた溜息が徐々に声になっていく。
彼のしなやかな体を弄び、溺れることのできる時間が、私はたまらなく好きだ。
「ガダラル、ガダラル・・・」
彼の中に私自身を出し入れしながら名を呼ぶと、
しっとりと汗ばんだ髪を紅潮する頬に張り付けたまま、私に微笑む。



彼の好きな場所を刺激すると、自らも妖艶に腰を振り、短い声を上げて悦がった。
「あ・・っ・・・ふっ・・・・ッ」
彼の・・・いや、男の体は正直だから・・・萎えることなく
立ち上がってぬらぬらと涎のように液を吐き出す、ペニスが愛らしい。
互いに満たされ、愛し合っているこの時間が、私にとっては幸福そのもの。




絶頂に程近い状態で、彼の体は全てが
敏感になってしまったようで、どこに触れても体を大きく震わせた。
膝、太もも、わき腹、足の指、乳首・・・。
腰を動かしながらも、その体のパーツへも、指や唇で愛撫を施す。
首を横に振って、けれど刺激が足りないのか、果てたいと。はやく果てたいと主張する。


声を我慢するためか、達するのを我慢するためか、
それまでしっかりと握っていたシーツを離し、私へしがみ付く。
甘い汗の香りが、ふと鼻を擽った。
「ルガジーン・・・!」
もっと早く動け、という催促だろう。
その声は切なく、目は涙ぐみ、直接刺激が欲しいのか、ペニスを私に押しつける。
彼の吐いたそれが、動くたび腹でくちゅくちゅと、鳴った。



けれど、「言わせたい」
「ガダ・・・ラル・・・ッ」
あの言葉を。
「愛している、ガダラル」
耳に、囁く。
安心し、なお一層強く私に抱きつく。
彼はこんなにも愛されたがりの癖に、私を愛しているとは、決して言わない。
少し、ずるい。
意地悪をしても良いだろうか。



「ガダラル、貴殿はどうなのだ・・・」
「何・・・ッ・・・をっ」
「愛しているのか?いないのか?」
「何故・・今そん・・な・・・あぁぁ・・っ」
深く突き入れると、彼は少し甲高い声を上げた。
「私を愛していると、言え」
「・・・な・・・ん」
彼の感じている顔を見ながら、それでも言わないのか、とばかりに腰の動きを変化させる。
「ン・・・ッ・・・!」



私が動くのを止めると、彼はじれったいのか、
その場所に「当たる」ように腰を動かし、身を捩った。
睨みつけてくる彼を見下ろす。
「動け・・・ッ!」
顔を真っ赤にして、切ない声で訴えてくるが・・・。
「言え」
「だ、誰が・・・ッ」
覆い被さるように、その額に唇を軽く触れさせる。
「愛している。ガダラル。愛している」
私の言葉を聞くたび、彼の中は酷くキツくなった。
声だけでも、感じる事ができるくせに。
「何故、言わぬ」
「五月蝿い、動け・・・ッ・・・誰が言うものか・・・誰が・・・」



唇でその声を塞ぐ。
舌は切なげに絡み付いてくるのに、それでも言わぬのか。
「強情な男だ・・・」
唇を離して呟くと、唾液の糸が切れる。
短い口付けでは物足りないのか、物欲しそうに赤い舌を覗かせた。
私を煽る、赤いぬめり。
奪うようにそれを舐め、擦りあうと、水音が漏れた。
短い息を吐きながらも、体を奮わせながらも、
こんなにも体で私への欲を示す彼なのに、それでも言わない。





私は諦め、彼の細い腰を抱え、再び動く。
こんな小さな体で、長時間揺すられるのも酷だろう。
中途半端に止められ、達する事のできなかった体は、再び熱を取り戻しはじめた。
「畜生・・・!」
けれど、快楽に負けるその体を浅ましいとでも思うのだろうか。
深く、激しく揺さぶられながらも悪態をつき、ようやく果てた。





息を荒く吐き、精液で汚れた体を投げ打ったまま、彼は両の手で目を抑えていた。
泣いているのだろうか。
「泣くほど、嫌なのか?」
そっと、その手首を掴み、目から離す。
頬を赤く染めたまま、私を見た。



「言わねば、解らんのか・・・ッ」
一筋の涙がこぼれる。
「貴様は俺のことなど一つも見ていない・・・ッ」
「ガダラル・・・」
「貴様は・・・ッ・・・!俺が感情無しで寝る男だと・・・そう思っているのか・・・!」



彼を無理に起こし、抱きしめる。
頭部を優しく撫でてやると、大人しく私の腕に納まった。





すまなかった。
すまなかった。


私を愛しているのが誰なのか、この腕の中にあるのに、見て見ぬ振りをしていたのだな。
いつか言ってくれるその日のために、ずっと愛し合っていこう。