夢十夜






こんな夢を見た。

舞台はアトルガン皇国。
美麗の炎の将。
女性ながらに大鎌を振るい、夫である天の将と共に蛮族を蹴散らす、ラクサーシャ。

古代の魔法を紡いで、その都市に入る異形のものを破壊し尽くす。





こんな夢を見た。

二人にはまだ、子供はいなかった。
常に騎馬を供にし、公私ともに最高のパートナーであったのだが、
アルザビの治安から五蛇将が一人でも欠けるのはいかがなものかと、もうけずにいた。

それは、子供好きの夫にとってはいささか不満であり。
ある夜、妻を無理にでも抱いてしまおうと画策する。





こんな夢を見た。

その夜はいつものように妻は夫に抱かれるつもりではいた。
夫はいつものように優しく口付けを施し、小ぶりな、しかし形のよい乳房を揉みしだく。
淡い緊張と期待が、妻の体を強張らせた。

実の所、妻は最近までれっきとした男性であり。
何故、自分の身が変わってしまったのか理解できないままであった。
夫は互いが同じ性であることを、悩みも悔やみもしなかったが、
異性同士として晴れて一緒になれると無邪気に喜んだのだが、
実はそれが妻の気には食わない所ではあった。





こんな夢を見た。

薄暗い部屋に、寝台の軋む音。
夫の低い声が「子を、産んでくれぬか?」とだけ、闇のしじまに溶けていく。
妻は、頭を振り、それを拒んだ。
「なぜ?」
「怖い」
妻は、未だに処女であった。
初めての痛みを、また経験するのは怖い。・・・と。
ずっと拒み続けていたのだ。
そういった仕草の一つ一つが新鮮で愛らしいと、夫は思ったのだが、
やはり、その身を別けて欲しいと願わずにはいられなかった。
かつて妻が男だった頃は、天の将として、武人として、
夫の血はどうにかして受け継がれていくべきだと、力説していた。
自分ではなく、他の身分もそれなりの女と一緒になるべきだと。
無論、そんなのは嘘で、彼はその、辛く悲しい嘘を吐いて泣いた。
俺が産めるのなら。
そのとき、ほんの微かに願い、すぐにその願いは取り消した・・・筈なのに。
こうして今、体は女性のものとなっていた。
「私が信じられぬか?」
夫の卑怯な言葉に(妻も夫を深く愛していた。
彼を信じない事など、一度も無かった)悲しくなりながらも
「・・・そういう、意味ではない。俺は・・・まだ男でいたい」
自分の心根は、男という性に誇りを持っている事を告げた。
夫の長い指が妻の臍の窪みをなぞり、陰毛をからめ、陰核に触れる。
「・・・ッ」
妻は声をひそめ、けれどそこに触れられる快楽を心待ちにした。
いつものように、舐めて欲しい。
夫の指はしかし、そこには触れず・・・。
「・・・あ・・・っ」
じわりと濡れた割れ目に指をあてがった。
「や・・・やダ・・・」
「ここに、入れたい」
「やだ・・・」
「ここでするのは、普通の夫婦の営みだぞ?」
ただ妻は口を結んで首を振った。
「怖い・・・!」





こんな夢を見た。

以前なら、もっと力があったのに、と思うと切なくなった。
手を掴んで寝台に繋ぎ止める夫の手が振り解けない。
プライドが邪魔して言えなかった、駄々っ子のような言葉も、すんなりと出る。
女である事が卑怯だと、思う。
観念しよう。自分は今、女なのだ。
ひ弱で、男の腕力に抵抗する術を持たない。
男であったときの「初めて」はどうだった?
複数に無理矢理犯されたのではなかったか?
あの時を思えば、今、夫に捧げてしまうのはどんなに幸福な事だ?
この男を愛しているのだから。





こんな夢を見た。

夫の愛撫はいつものように丁寧で、いつものように優しい。
ゆっくりと解していく場所が、ほんの少し違うだけだった。
「ルガジーン・・・」
妻の声は震えていて、夫は自分がしていることが、
強姦にも似ているということにようやく気がついた。
「産めるか・・・どうかは解らない・・・」
「・・・なぜ・・・?」
「月の物が・・・まだだ・・・」
「そうか」
つまり、彼はまだ完全に女性になった、という訳ではないのだろうか?
「中を、刺激しよう」
酷く厭らしい筈のその言葉は、この男が言うから許される。





こんな夢を見た。

妻の狭い膣にようやく指を入れ、処女膜、といわれる肉ひだのほんの隙間を広げる。
妻が短くうめく度、その指の動きを止めた。
「・・・平気・・・だ・・・」
緊張のあまりに乾いてしまった秘部に、
潤滑油を垂らしては、指の出し入れと膣の拡張を繰り返す。
いきなり入れるのは、この小さな体に負担は大きく。
性器の挿入前に指でできるだけ広げておけば、
無痛で初体験ができるのだと、風を名乗る同僚が言っていた。
「・・・ん・・・っ」
立ち上がった愛らしい乳首を舐め、甘く噛み、少しでも受け入れる為の体にしたい。
「怖いか?」
「・・・すこ・・・し・・・」
妻の微笑は、眩しいほどだった。





こんな夢を見た。

何時間も掛けて、ようやく、夫は妻の奥深くに自身を埋め込む事が出来た。
「痛いか・・・?」
「少し・・・でも・・・平気・・・」
「良かった」
二人は破顔していた。
そして、ようやく深い口付けをしていた。
妻の体の奥に、熱いものを感じる。ここが、子宮だろうか。
「んン・・・ッ・・・!奥・・・来て・・・る」
「ガダラル・・・凄いな・・・中に、宇宙を抱いているようだな・・・」
夫の溜息は、妻の汗だくの額を撫でつける風のように、心地よかった。





こんな夢を見た。

夫の処置のおかげか、初めてではあったが、痛みも出血もほんの僅かで済んだ。
冷たく冷やした果実酒の炭酸割を作ってやると、妻は嬉しそうにそれを口につけた。
頬は薔薇色に染まり、好きな男と一つになれたことに幸せを感じる、
普通の女性の姿に、夫はかつての彼を思い出す。
ふと。
「男に、戻りたいか?」
聞いていた。
「当然だ」
そして彼も、気持ちよいほどの即答を返していた。
「お前は、どちらがいい?子も産めて、か弱く、柔らかい女が良いのか?それとも・・・」
「男だ」
「・・・・・・?」
「貴殿の、男であった姿に惚れた。今、こうして一緒になれたことは嬉しい。
 しかし、外見ではない。中身が同じだから、いままた、惹かれている」
「・・・・・・戻れなかったら・・・・・・」
「供に墓に入ろう」