裏・小悪魔





ルガジーンはすっかり甘い罠にはまり、しかし、その状況を大分楽しんでいた。

自らをその罠の獲物にしたガダラルは、薄暗い闇の中で睨むように男を誘った。
明り取りの差し込む、たった一筋の光の中で、その体は儚いほどに白い。

足元には紅いアミールの部分が無造作に放り投げられ、散らばっている。
手を伸ばせば充分に届く、近すぎるその距離に、あえてただ、見つめる。

濃い茶色の髪が、さらりと揺れ、幾分かの時間が経ったことに互いが気付いた。

「手を、出さないのか」

おかしな誘い文句である。
ルガジーンは口元で笑うと、目を細めた。

「闇の中でもうつくしいな」
「戯言を言う暇があるなら、満足させてみろ」



いつも。
充分なほどに満足しているくせに、そんな風に、不満気に言うのか。
「この口が・・・」
自分をじっと見上げるガダラルの細い顎を引き、口を塞ぐ。

自ら捲り上げたアンダーシャツの下の、その小さな突起をゆるく摘む。
「・・・ア・・・」
こんなにも、敏感なくせに。

口付けを疎かにし、舌と指でその反応を楽しむ。
擦り上げ、舐め、吸い。
赤子のように音を立てる。

小さな体は、男の動きひとつひとつに震えた。
両手で口を抑え、声を飲み込む。
ああ、でも・・・。

「ん・ふ・・・っ!」
足すら震える。
ルガジーンに縋るように彼の肩に手を置き、
できることならのこの快楽をすこしでも逃がすようにと、爪を立てる。

このような場所で、このような場所を嬲られて声を上げるなど・・・。

暖かな部屋でも、柔らかなベッドですらない。
ここは軍の施設であり、滅多に人が出入りしない武器庫。
このようなところで男に抱かれる。
その興奮が、ざわざわと腹の下を持ち上げた。

そのせいか。ガダラルはほんの少し、素直になっていた。
「・・・・・・いい・・・そこ・・・舌で・・・もっと・・・」
途切れ途切れに息をつぐ。
ルガジーンは胸の二つを吸い、今まで攻めいた手をガダラルの股間に持っていく。
すこはすでに堅さを増し。
強く握れば、さらに体を強張らせた。
「あ・・・ッ」
「昨夜は、すまなかったな・・・寂しかったろう」
「・・・いい・・・もう・・・」
「一人で、慰めたりはしなかったのか?」
「す、する訳・・・ッ!」
ガダラルという男はストイックで、内に秘め事を溜め込む。
ルガジーンがこうして彼を抱かなかったら、一体いつ、
息抜きをするのだろうと思うほど、自慰すら汚らわしいとでもいうように。

かっと赤くなった頬に優しく口付けて、顔をずらして鼻をすり寄せる。
「目を閉じて、手で、良いかな?」
ルガジーンの優しい視線に、無言で瞼を閉じた。

その場所は、女のものとは違う。
挿入に充分な潤みは自然には得られない。
多分、ルガジーンはガダラルの精液を潤滑油の代用にしようと、考えているのだろう。

下着を剥いで直に触れ、立ち上がったガダラル自身をゆっくりとしごく。
張りつめた肉の堅さが、ルガジーンの動きに応えている。
「大きくなったな」
「い・・・言うな・・・」
ふ、と微笑み、犬歯で耳たぶを、柔く、齧る。
「・・・ン・・・」
手の動きは、速さを増し・・・。
「濡れてる」
「言うな・・・ッ・・・!」

恥かしくて死にそうだった。
なぜ、今日は言葉で責めるのだろう。
不安になる。なぜ、こんな風に意地悪を言うのだろう。
なのになぜ、こんなにも体の奥がゾクゾクと震えるのだろう。

夜の闇ではない。
目を開ければ目の前に、自分を陵辱しようと企む男の微笑があるのだろうか。
それとも、自分の反応の一つ一つを楽しんで見ている?
あられもない自分を晒されている。
それが恥かしくて、ガダラルは目を開ける事が出来ずにいた。

声が、息ともわからない音で、まるで犬のように短く吐き続けた。
「あ・・・あ・・・!も・・・ぅ・・・!」
強く、ルガジーンの肩を掴む。
それが合図だった。

黒い肌の手のひらに吐き出されたそれは、白く、だらりとこぼれた。
「後ろを向いて、壁に手をついて」
息を整えながら、ルガジーンの言う通りにする。

ルガジーンの動きが見えず、ほんの少しの緊張がガダラルの心を支配した。


疼く。

一度達しても、中に欲しくて、唇がわなないた。
「・・・来い」
ルガジーンの手がその細い腰を抱き寄せると
間もなく、滑ついた指がその割れ目に押し入る。
「・・・っ・・・!」

石壁がやけに冷たい。
なのに、ガダラルの体は熱く火照っていた。

中に、あれを。
熱い塊が欲しい。

 

焦らすかのような鈍さで、中を解され、唇を噛んだ。
ルガジーンの指は、長く、太い。
それは種族差もあるだろうが、ガダラルのそれと比べたら、
体躯のほかにも指すら逞しいと感心せざるにはいられない。
その、逞しく太い指が2本も中に押し入っている。
くちゃり、と音を立て、ガダラルの体は喜びを感じ始めていた。

「そろそろ、いいかな?」
背後で布の擦れる音がし、腰紐がはらりと石畳に落とされた。
開いたほうの手でガダラルの手を導く。触れろということだろう。
後ろ手で触れたそこは、熱くたぎり。

その大きさと、硬さと、熱に息を飲んだ。
思わずそれを掴んで、さきほどまでされていたように、ゆっくりと扱いた。
「・・・もっと、だろう?」
背後から囁く声が、低くガダラルの耳を侵す。
強く握り、速く擦りあげる。

 

その手を制され、尻を強く掴まれた。
はいって、くる。
体は強張り、けれどその部分は広がっているのだろう。
硬いそれが押し付けられ・・・。
「あぁあぁっ!」
一気に挿入されて、声を上げていた。

背筋がぴんと張り、背骨を抑えるように、ルガジーンの手が添えられる。
ガダラルの体は快楽の波に耐えていた。

ただ挿入をされただけなのに、息が荒く、口の中は乾いてしまっていた。
カタカタと、膝が震えた。

石壁に支えてもらおうと腕に力を入れたが、上手くいかなかった。
ただ、中にルガジーンがいる。
それだけ。

「・・・っ・・・」
息を飲んだのはルガジーンだった。
ろくに動いてもいないのに、息を詰めて、達するのを耐える。
「そんなに絞めるな・・・」

昨夜できなかった分、恋しくて寂しかった体が今ようやく、
性器を受け入れて喜びに打ち震えているのだろう。
ガダラルの体は、勝手に煽動をするように、奥へと男を導いていた。
中が動く度、男の塊も内部を攻め。
「ん・・・んふ・・・ぅ・・・っ」
甘い声が武器庫に響いた。

爪の隙間に石壁のクズが入るほどに力を込め、立ったまま犯される。

ルガジーンは昨夜約束を破った詫び、ともいうように、強く彼を抱いた。
背後から小さな体を抱きしめ、足が浮くほどに攻める。

あられもなく交わる音も、悦びの声も、闇に蕩けていった。
ここなら誰も来ない、誰に聞こえることも無い。
その安心感も手伝い、ガダラルは今までに無いほどの声を上げていた。
互いに、一度では足りなかった。
達して、またルガジーンがガダラルを求め、
「助平・・・」
そう、一言抵抗してから、簡単に体を明け渡した。
正面から抱き合って、口付けしあい、そして、微笑みながら愛し合った。