心中





「われら、山頂の黒き土に巨なる穴をうがち、人知れず恋の棺を埋めむ」

彼の呟きはまるで呪文のようで、
私はそれを聞き逃していたように思う。
呪文のようなそのことばを、ゆっくりと紡ぐ、そのあかく、柔らかなくちびる。

「語りえぬ二人の恋なれば
われらが棺の上に草生ふる日にも
絶えて知るひとの無かるべし」

ああ、そうだな。
二人で死ねるなら、誰にも知れず、
そっと、いつしか忘れてもらいたいものだな。

私が微笑むと、彼も同じように、少し寂しそうに微笑んだ。
彼の伸ばした手を、そっと握り、その軽い体を引き寄せた。

 

私たちは、いつしか、言葉無くてもこうして心を通じ合えるようになっていた。